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お祭り列島見て歩き山里に春を呼ぶ川場村の『門前春駒』

女装した青年たちが雪深い山里に春を呼ぶ

 群馬県の北部、武尊山の麓に位置する川場村。この村の古刹、吉祥寺周辺の門前地区で明治時代から伝わる「門前春駒」は、ちょっと変わった民俗芸能だ。「明治時代から〜」という中途半端な起原は何だ?と思って尋ねてみると、昔、隣村から来ていた旅芸人の一家が病気で来られなくなり、それを村の青年たちが引き継いだということらしい。で、何が変わっているのかというと、旅芸人の一家に扮するのは全員男性で、おっとう(お父さん)役以外は皆女装をするということだ。

   「門前春駒」の朝は早い。当日の午前2時、地区の集会所には既に保存会の青年たちが集まり準備を始めている。お化粧と着付けを担当するのは婦人会の方々。年に一度のことなので「あれ、これを先に着るんだっけ?」などと言いつつ、着たり脱いだり、脱いだり着たりしながらも和やかに準備は進む。数時間後、出来上がった女装姿は現代の化粧品のめざましい発展のおかげか予想外に、皆そこそこに美しい。

 午前5時、お神酒を飲み干し出陣式の後、吉祥寺へ向かう。外はまだ暗く昨晩から降り始めた雪がまだ舞っている。天気予報によると今朝の気温は氷点下7度。服は着込んできたが底の薄い靴を履いてきてしまい、足先がかじかんでしょうがない。

 お寺の仏前で春駒の唄と舞を奉納した後、午前6時、どこからともなく聞こえるチャイムの音を合図に門付けに出かける。おっとう、おっかあ、娘二人の四人一組で、これがもう一組いて計八人。この二組で地区内の約120戸の家々を一日かけて回る。

 回り始めて間もなく空が白みはじめ、夜明けの蒼の中に「日本むかしばなし」にでてきそうな、のどかな村の風景が浮かび上がってくる。そしてその中を行く派手な着物の女装の一団。何ともシュールだ。雪が降って凍結した道を履きなれない下駄で歩くので、危ないな〜と心配しながら後をついて歩いていたら、逆にぼくが滑ってころんでしまった。しかも2回。

 訪れた先で娘役は座敷の縁側から家に上がり、おっかあの叩くうちわ太鼓に合わせて唄と舞を披露する。一方おっとうは玄関から家に入り、振る舞い酒をいただきご祝儀を受けとる。各家ごとに酒を振る舞われ、飲み干すまで帰してもらえない。十軒を過ぎた頃には、かなり上機嫌になり、更に二十軒で見物客に絡みはじめ、そのうちだんだん無口になっていく。そんなおっとうのあまりにも素朴で愛嬌のある壊れっぷりを見るのも、門前春駒見物の裏の楽しみだ。

 もともと春駒は養蚕の繁盛を願って行っていたもので、現在この村に蚕を飼っている家はないらしいが、みんな酒や暖かい食べ物などを振る舞って歓迎する。それはこの女装の珍客が、一緒に春を連れてやってくるからだろう。「春駒がやってくると春が近い」。さっき見物客のボクにまで甘酒を振る舞ってくれたおばあちゃんが言っていた。気がつけば雪がやんでいる。この日、東京では梅が開花した。


【春駒まつり】
群馬県利根郡川場村の門前地区で毎年2月11日に開催。旅芸人一家に扮する地元の若者は全員男性で、母親役と娘役は着付けをして化粧をし、家内安全と五穀豊穣を祈って各家庭を巡り、踊りを披露する。

【川場村へのアクセス】
●新幹線で
東京から上越新幹線で上毛高原まで70分。
タクシーで約30分。
●クルマで
練馬ICから関越自動車道沼田ICまで約90分。県道263号を利用して約15分。

川場村役場HP
http://www.vill.kawaba.gunma.jp/
川場村役場観光協会
http://www5.kannet.ne.jp/~kawaba.k/
世田谷区民健康村
http://www.furusatokousha.co.jp/