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冬から夏への贈り物 – ユネスコの無形文化遺産に登録された『小千谷縮』

繊維を紡ぎ糸にする長い時間

まだ夜も明けやらぬ早朝。障子の窓がほんわかした雪あかりで白んでいる。おばあちゃんは、孫たちを起こさないように一人そっと寝床を出て茶の間へ行くと、火燵に足を入れて暖をとりながら作業に入る。昨日も、またその前の日も、同じように手を動かしていたように、今日もまた一心に糸を積み(うみ)はじめた。

ひざの上に敷いた黒い布の上には蜘ちょま蛛糸のように繊細な苧麻(ちょま)(カラムシ)の繊維がある。背筋を伸ばし、目を細めながら指先に意識を集中させる。分厚い電話帳に丁寧に挟んだ糸と糸を、時折口に含み湿り気を与えながら結い合わせる。その端にまたもう一本の糸を結って繋げ、機にかける糸をつくる。時計の針のカチカチカチという音だけが茶の間に響く。うっすらと夜が明けるしじま。世界の音はすべて雪が吸収し、シーンという静寂の旋律だけが清々しい空気の中に響いていた。

「カラムシは湿度がないとすぐに切れるすけ」

そう呟きながら、年期の入った手つきで結ぶ。

「昔は火燵囲んで女4人集まってやってたこともあったろも、皆集中して無口になるすけ(笑)」

その集中が気持ちいいという。顔立ちが凛として、まるで座禅僧のような気配に満ちていた。この「ひと結び」がなければ、越後の布が生まれることはない。