旅行作家 山口由美さんに聞いた – 日本のいい宿、いいホテル[第2回] – 日光金谷ホテル

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Q.精神も肉体もリフレッシュできる宿を探しているのですか。(食品会社勤務)
震災以来、今まで経験したことのない出来事が続き、不眠不休で1ヵ月。ようやく工場のラインも動き始めたので、この週末は休みを取れそうです。気分一新、身体も精神もしっかりリフレッシュしたいのですが、東京から近くて落ち着ける宿はありませんか?

A.それなら日光金谷ホテルかおすすめね。(山口)

金谷ホテルは東照宮のすぐ近くにある歴史あるホテル。草創期の様子がイザベラ・バードの「日本奥地紀行」で記述され、ヘレン・ケラーやアインシュタイン、フランク・ロイド・ライトも泊まっています。クラッシックで趣があり落ち着けるし、歩いて東照宮へ参拝できるので、気分転換には最高ですよ。

Hotel 4
建物の新設と増築、そして改装を重ねてきたため、多様な部屋が存在。写真は本館にあるデラックスタイプ。リゾートとして長期滞在に相応しい広めの間取り。

時の流れの中に身を置くことの不思議

旅はいつも慌ただしいものだった。必ず目的があって、それに背を押され休むことなく遊び続けた。けれど肉体ばかりでなく、精神的にも疲れを感じる今、何もしない贅沢を求めて自宅から逃走することにした。

都内から東北道をクルマで2時間ほど飛ばし、神橋の手前を左折し坂道を登っていく。駐車場に車を停め、バッグ片手に木製の回転ドアをくぐると、レトロな雰囲気のフロントから笑顔の係が迎えてくれた。

チェックインを済ますと、ベルボーイの先導で本館から廊下を通って新館へ向かった。“新”とつくが、1901年(明治34年)に造られている。赤い絨毯の廊下は天井が高く、電燈の明かりが足元をやさしく照らす。壁にはホテルの歴史を語る古い写真が飾られていた。通された部屋はツインで、窓を開けると爽やかな木々の香りが入り込んできた。ベッドに横になり、頭をからっぽにしてから、ダイニングルームに向かった。

夕食の後は本館のバー「デイサイト」に立ち寄った。薪が爆ぜている大谷石の暖炉は、フランク・ロイド・ライトの設計という噂もある。暖かな席に座り、スコッチをちびちびと舐めながら、流れるジャズに耳を傾けた。今ではお目にかかれないレコードのコレクションがあり、好きな1枚を持ち込むこともできる。到着して以来、じわじわと不思議な安らぎが身体を包んできた。ホテルはどこもかしこも古めかしい調度品ばかりだが、それが何故か心地よい。ここはまさに、まるごとクラシックな世界なのだ。

それもそのはず、日光金谷ホテルは現存する日本最古の西洋式ホテル。アメリカ人宣教師ヘボン博士のすすめにより、金谷善一郎が外国人向けの宿「金谷カッテージイン」を1873年(明治6年)に創業したのが始まりだ。現在地に移り、「金谷ホテル」として本格的な西洋式ホテルとなったのは1893年(明治26年)のこと。1世紀半に至る歴史を持ち、建物は国の登録有形文化財に登録されている。建物全体に蘊蓄が散りばめられているのも頷ける。

翌朝は神橋を渡り東照宮へ。美しい社殿を眺め、樹齢数百年の樹木が生み出す荘厳な空間に身を置くと、気持ちが引き締まるのは何故なのだろう。人が知ることのない時の流れを経てきた東照宮や金谷ホテルに身を置くこと。ただそれだけで、十分満たされた2日間だった。

明治の末にトーマス・グラバーが鱒を中禅寺湖に放して以来、虹鱒は日光の名物。その虹鱒をムニエルにして日本酒でフランベした「虹鱒のソテー金谷風」。繊細な紋様が美しい明治の頃に輸入されたバカラのワイングラス。

現在の本館入り口は、昭和になって人手で地面を掘り下げ造ったもの。総食堂長の菊池行男さんは様々なエピソードを知る40年のベテラン。

建物の新設と増築、そして改装を重ねてきたため、多様な部屋が存在。写真は本館にあるデラックスタイプ。リゾートとして長期滞在に相応しい広めの間取り。

風情あるバー「デイサイト」は人気のスポット。手持ちのレコード持参で泊まりに来る人もいるという。本館のラウンジには、手紙を書くための古い文机が今も置かれている。

Hotel 2
明治の末にトーマス・グラバーが鱒を中禅寺湖に放して以来、虹鱒は日光の名物。その虹鱒をムニエルにして日本酒でフランベした「虹鱒のソテー金谷風」。繊細な紋様が美しい明治の頃に輸入されたバカラのワイングラス。
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現在の本館入り口は、昭和になって人手で地面を掘り下げ造ったもの。総食堂長の菊池行男さんは様々なエピソードを知る40年のベテラン。
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風情あるバー「デイサイト」は人気のスポット。手持ちのレコード持参で泊まりに来る人もいるという。本館のラウンジには、手紙を書くための古い文机が今も置かれている。

Hotel 1

日光金谷ホテル
住所:栃木県日光市上鉢石町 1300番地
TEL:0288-54-0001
料金:平日:ツイン1室17325円(税・サ込)から
[アクセス]
●JR新宿駅(スペーシア)→東武日光駅(110分)
●東武浅草駅(スペーシア)→東武日光駅(110分)
●JR東京駅(東北新幹線・JR日光線)→JR日光駅(100分)
●JR・東武日光駅→(東武バス)→神橋(10分)

http://www.kanayahotel.co.jp/

 

山口由美(やまぐちゆみ)
旅行作家。著書に『帝国ホテル・ライト館の謎』(集英社新書)、『消えた宿泊名簿~ホテルが語る戦争の記憶』(新潮社)、『旅の窓から』(千早書房)、ほか。

 

写真/飯田裕子 文/JQR

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