出石尚三セレクション[第1回] – 有彩作竹鞄 竹細工を極めて作られた鞄の美

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波網代編バッグ
精緻な編み目と深みのある色が美しい竹鞄のハイエンドモデル。
縦20.5cm×横43cm×マチ14cm
持ち手立ち上がり14.5cm
472,500円(税込)

奈良県、斑鳩の法隆寺には、古い時代の厨子が数多く伝えられています。厨子とは、仏像や教典などを大切に収めておくための箱。比較的小さなもので、正面には扉が付けられて、開け閉じできるようになっています。ほとんどの厨子は木製ですが、法隆寺にはすべて竹で出来ている厨子が収められています。天平宝字五年(761年)10月1日に使ったものだと記されている竹の厨子。使ったということは、すでにあったわけで、少なくとも今から1200年以上も前に精巧な竹細工が作られていたのです。

また、東大寺の正倉院には数多くの花籠(けこ)が収蔵されています。竹で編んだ、生花を一時的に入れておくための籠のことです。この花籠は、散華に使われたものでしょう。仏様を供養するために生花を蒔く、これが散華。散華のために生花を入れおく竹の籠が、花籠であったのです。これらの花籠は、まずはじめに網代で編み、やがてざる編みへと移り、最後は巻縁で仕上げられています。いずれにしても奈良時代にすでに、そのような優れた竹細工が行われていたのですね。

また、エジソンが1879年に白熱電球を発明したことは、あまりにも有名ですね。そして最初のフィラメントに、実は日本の竹が使われているのです。真は伸縮性の少ないことでも知られています。だからこそ昔から物差の材料と言えば竹でした。

心を癒す竹の不思議

竹林の七賢という言葉があります。中国、魏の時代、俗世間を離れて竹林に集った七人の賢者のこと。賢者かどうかはさておき、私たちも竹林の中を歩くと、ただそれだけで心が静かに落ち着いてくる。かすかな笹の触れ合う音、青竹の緑、その匂い・・・・・・。どこまでもまっすぐなその姿に、人間の疲れた心を癒やす力が秘められているのかもしれません。

竹は単にたおやかで、柔軟性に富んだ、かけがいのない材質であるだけでなく、人の心を慰め励ましてくれる、不思議な力を持った植物でもあるのです。

真竹は中国原産だと考えられていて、今も東南アジアに広く分布していますが、竹細工用としては、日本産の真竹が最適だとされています。また真竹は百年に一度だけ、一瞬、美しい花を咲かせるとのこと。100年に一度の真竹の花。これひとつを想ってみても、いかに真竹には深い神秘性が籠められているかが分かります。

最上質の真竹を使う

竹細工の名人有彩は、たいていは3年物の真竹を使う。その工房は、大分県臼杵市佐志生にあります。真竹は青森以南の、日本全国に分布していますが、ことに竹細工には九州のものが良いとされるのです。そしてさらには九州でも大分産の真竹が最上質だと考えられています。

有彩の父、毛利正則もまた竹名人と謳われた人物で、極上の真竹を探し求めて大分に移り住みました。大分の真竹がいかに優れているかが分かるでしょう。有彩はその銘竹の里で生まれ育ち、物心ついた頃から竹がほとんど唯一の遊び道具であったとのことです。

名人が吟味した竹を苅る

それにしてもどうして3年物の真竹なのか。真竹の3年物は、人間にたとえるなら青年期。竹の繊維に、身質に、もっとも勢いがあり、もっとも充実しているから。これは緻密に編んで10年も置くと、すぐに分かります。3年物の真竹を使って編んだものなら、痩せるということがありません。けれどもそれよりも若い竹を使うと、いくら目を詰んで編んであっても竹が微妙に痩せてくるため、隙間ができてしまうのです。

有彩の真竹は、寒くなる時期に伐ったものだけを使います。11月末から12月はじめにかけての頃。これは竹取り名人の仕事。竹取り名人は寒い、晴れた日を選んで山に入ります。で、性根の良い、3年物の真竹を探す。真竹も人と同じで、性格の良い竹もあれば、そうでない竹もあるのです。しかもそれは、必ずしも外観だけからは分からない。でも、竹取り名人にかかると、今、どの竹を伐るべきかが分かるのだそうです。いや、竹の囁きが竹取り名人にだけに聴こえてくる。「おーい、オラだオラだ、オラはここにおるぞおー」。この声なき声だけを頼りに、竹取り名人はその3年物の、最上の真竹を伐るのです。

真竹を伐るにも細心の注意が払われます。というのは、途中で傷つけたり、痛めたりしては、あとで使いものにならなくなってしまうからです。ちょうどそれが、わが子の手足でもあるかのように、伐る。伐った真竹は、その場に静かに寝かせる。この寝かせることも、大切な儀式なのです。2ヶ月ほど山に寝かせて落着かせた後、扱いやすい長さに切り、さらに山から下ろして寝かせる。――こうしてようやく竹細工の材料へとなってゆくのです。

ところでどうして寒くなる時期を選んで、伐るのか。それは真竹の繊維に含まれる糖分がもっとも高いからです。この糖分は、おそらくは後々の竹細工の艶と関係があるのでしょう。

竹籤が紡がれ芸術品となる

切った真竹をひごに仕上げるまでにも、いくつかの工程があります。真竹を割り、剥ぎ、細く、しなやかな、ピアノ線のようなひごに変身させる。あとはただひたすら、長い時間をかけて、ゆっくりひと目ひと目編んでゆく。有彩の両手が、十本の指が、ピアノの名手のように動いて藝術品が生まれてゆくのです。

同じようなひごを使って、同じような手法で編んだとしても、まったく同じバッグには仕上がりません。まさに藝術品と呼ぶべきでしょう。有彩の編んだ竹鞄は、ひごを使っての彫刻なのです。彫刻であるからには、100年200年使ってもビクともしません。革や木や金属よりむしろ劣化が少ない。母から子へ、子から孫へ、孫から曾孫へと語り継がれる一品なのです。

真竹のひごは凛としている。その姿は誇り高く、気高くさえある。でも、それが有彩の厚い、温かい指先に触れると、大人しく撓う。ひと目ひと目、穏やかに、柔順になってゆく。いや、そうではない。有彩は指を通して、ひごと会話を愉しんでいる。語り合い、じゃれ合うことで、有彩の精神と生命とが竹のバッグに吹き込まれてゆくのです。有彩作の鞄がそのどれを鑑賞しても、ひどく人間らしい顔つきをしているのは、たぶんそのためなのでしょう。私が、この有彩作のバッグを、活きた藝術品だと考えているのは、以上の理由からなのです。

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上から、
網代編藤バッグ(黒)
縦22cm×横30cm×マチ9.5cm
持ち手立ち上がり13cm
81,900円(税込)

六つ目編バッグ(紫)
縦15cm×横33cm×マチ13cm
持ち手立ち上がり13.5cm
147,000円(税込)

波網代編バッグ(緑)
縦16cm×横26cm×マチ11cm
持ち手立ち上がり13.5cm
79,800円(税込)

出石尚三
1944年生まれ。64年にファッション界に入り、以来ファッションをテーマにデザイン、コンサルティング、評論など広い分野で活躍。著書に「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)、「ブルー・ジーンズの文化史」(NTT出版)など多数。近著「スーツの百科事典」(万来舎)は、男性のスーツ姿がいかにあるべきかを説いて好評。

イベントのお知らせ
2011年3月10日(木)〜16日(水)、銀座和光本館1階にて、有彩作竹鞄の展示販売会が開催されます。
●問い合わせ カレントアート (www.currentart.co.jp)

photo/ Satoru Naito

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