出石尚三セレクション[第5回] – 黒呂色漆の指環

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指輪(ガーネット・黒呂色漆鏡面塗り)ガーネット、K18YG、黒呂色漆 ¥1,050,000(込)

 

透明感のある黒こそ優雅の極緻

漆を意味する言葉としての〝ジャパン〟japanが英語として使われたのは、1688年頃であるという。ただ、それよりもはるか古い時代から、日本を訪れた異国人は、漆の美を識っていたのだ。

その日本において、漆は、少なくとも縄文初期の時代から作られていたのである。たとえば福井県三方(みかた)郡三方町鳥浜遺跡から、朱漆の櫛が発見されている。およそ六千年前の漆工芸品なのだ。櫛の両端には角であるかのように屹立して、大胆なデザインとして表現されている。櫛の歯はさすがに欠損している部分もあるのだが、表面の朱漆はたった今仕上げたばかりであるかのように煌めいている。

漆は黒い輝きに加えて、強い。唯一、紫外線には弱いけれど、酸をはじめとする薬品にもけっして侵(おか)されることがない。だからこそ、六千年もの眠りから醒めてなお、生き生きとしているのだ。漆の主成分がウルシオールであるのはよく識られているところであろう。そして上質の漆にはざっと70%ものウルシオールが含まれる。アジア全土に漆に類した樹木は数多くあるものの、これほど上質の漆は日本だけに存在する。また日本の高温多湿の気候も漆づくりには最適であるのだ。

 

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オブジェ指輪(蒔絵・螺鈿・黒漆・鏡面塗り)K18YG、黒呂色漆、青貝、K24YG¥2,100,000(込)

 

《その穂のゆらゆらとまたたく陰にある膳や椀を視詰めていると、それらの塗り物の沼のような深さと厚みとを持ったつやが、全く今までと違った魅力を帯び出して来るのを発見する。そしてわれわれの祖先がうるしと云う塗料を見出し、それを塗った器物の色沢に愛着を覚えたことが偶然ではないのを知るのである。》(谷崎潤一郎著『陰影礼賛』)

『陰影礼賛』が、日本美についての類い稀なる名著であることは言うまでもない。そこで谷崎は漆の美を、「沼のような深さと厚みとを持ったつや」と表現している。——もうこれ以上なにをつけ加えることがあるだろうか。

塚本尚司は日本の金胎漆芸の第一人者である。貴金属の上に漆を塗り重ねる手法であるから、金胎漆芸と呼ばれるわけだ。ある時、幸運にも塚本尚司は、今後二度と出ないであろう巨きなガーネットに出会い、その紅と、黒呂色とのコントラストに思い至ったのである。黒呂色とは、日本特有の、透明の黒。透明の黒漆を繰り返し繰り返し、二十数回塗り重ねることによってのみ、黒呂色は表現されるのだ。

まさに「沼のような深さと厚みとを持ったつや」ではないか。もし、谷崎が生きていたなら、必ずや贈物にしたことであろう。

 

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(左から)指輪「亀甲」(エメラルド・蒔絵・螺鈿・黒呂色漆・鏡面塗り)K18WG、黒呂色漆、青貝、K24YG¥892,500(込)/オブジェ指輪(朱漆・黒呂色漆・鏡面塗り)K18YG、朱漆、黒呂色漆 ¥1,155,000(込)/指輪(朱漆・鏡面塗り)K18YG、朱漆 ¥210,000(込)/指輪「亀甲」(蒔絵・螺鈿・黒呂色漆・鏡面塗り)K18YG、黒呂色漆、青貝、K24YG¥525,000(込)

 

●問い合わせ(株)ジバコ Zivaco Inc. http://urushiart.com

 

出石尚三
1944年生まれ。ファッションをテーマにデザイン、コンサルティング、評論など広い分野で活躍。著書に「ブルー・ジーンズの文化史」(NTT出 版)など多数。近著「スーツの百科事典」(万来舎)は、男性のスーツ姿がいかにあるべきかを説いて好評。

撮影 / 内藤サトル

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