出石尚三セレクション[第4回] – ミクロ・ロコモーティヴ・ペンダント・ウォッチ – 閉じ込められた極小機関車の音が聴こえる

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コリント様式の円柱を想わせるペンダントのトップ部分。大型のピンクトルマリンと小型のエメラルドがあしらわれた頂上部。ここを巻くことで時計に生命が与えられる仕組である。
K18YG/K18WG トルマリンエメラルドダイヤ時計 Model : 2-50-04690-A001 ¥2,415,000(込)

 

からくり人形の歴史は古い。一説にからくり人形の祖は、竹田出雲であるという。1658年(万治元年)、京に上がって御所にからくり人形を献上。これによって竹田八雲の名を拝領したと伝えられる。

 

やや時代は下るが、からくり人形を作ったひとりとして、田中久重の名を忘れてはならない。田中久重は1799年(寛政十一年)九月十八日、九州、久留米に生まれ、またの名を、からくり儀右衛門とも呼ばれた人物。

例えば、儀右衛門が作ったのは酒盃を運ぶ人形であった。美しく首飾った人形はお膳を捧げ持っており、その上には盃が置かれている。で、盃に酒を満たすと、人形は歩きはじめて客の前に進み、止まる。客が酒を呑み干し、盃をもとの位置に戻すと、ふたたび人形は動きはじめ、帰ってゆくのである。

数ある作品の中でも傑作と言えるのは、やはり「万年自鳴鐘」であろう。自鳴鐘(とけい)とは和時計のこと。「万年」は「複雑時計」の意味と解すべきであろう。儀右衛門が「万年自鳴鐘」に着手したのは、1850年(嘉永三年)のこと。完成はその翌年、儀右衛門が五十三歳の時である。

 

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《全体の構想設計と組立てはもちろん時計師の仕事であったがその下職として下地職、鋳物師、指物師、塗師、蒔絵師等に分れ下地師が機械の部分品の粗い形を作ると時計師は鑢その他の工具を用いて精巧な仕上げを加えた後に組立てる。鋳物師は鐘、台や蓋被は指物師、側の彫刻や象眼等それぞれ専門業者の手にかけられるのである。そのうち近江がもっとも苦心したのは、時計の心臓部ともいうべき発条(ぜんまい)と歯車であった。歯車は彼自身鑢をもって薄暗い無尽燈のあかりの下でこつこつと削ったが、発条だけはどうにも満足するものが得られなかった。》(森豊太著『田中久重伝』田中久重伝刊行会)

 

文中に「近江」とあるのは久重のこと。久重は1849年(嘉永二年)、京の嵯峨御所より「近江大椽(おうみだいじょう)」の称号を得られ、これ以降はその名が多く使われた。「近江大椽」はからくり師としては最高の名誉であった。また「無尽燈」は明るさを常に一定になるよう工夫された一種のランプ。これまた久重の発明で、広く世に使われたものである。

このようにして完成した「万年自鳴鐘」は高さ約83センチ、台幅65センチの置き時計であった。それは六面体で、それぞれの文字盤にそれぞれの機能を持たせた、まさに「万年」(複雑時計)であった。この複雑時計のなによりの特徴は、スイス製の16石の懐中時計が嵌め込まれていたことであろう。そしてこの懐中時計のムーヴメントと、時計全体の機構とは連動していたのである。

「万年自鳴鐘」は当然のように話題になった。松江の城主、松平出羽守もそれを買おうとしたひとりであった。が、一千両という値段を耳にして諦めたという。以降、誰ひとり「万年自鳴鐘」を買った人物はいない。天文学的数字で、値段のつけようがないからである。

 

田中久重と「万年自鳴鐘」とを調べながら、私は清田智誠のことを想っていた。清田は宝飾師であるが、からくり師の田中久重となぜか重なってしまうのである。清田は長い間ずっと完璧なジュエルリー・ウォッチを創りたいと考えていた。世にジュエルリー・ウォッチは星の数ほどあるのだか、清田は自らの理想美を具現化する逸品を夢見ていたのである。そのためにはぜひともユニイクな、オリジナルのムーヴメントが欲しいと考えた。

まず最初にムーブメントがあるのではなく、清田が夢に描く完全なるジュエルリーの一部となってくれるようなムーヴメントである。そんな清田美学の一員となってくれるムーヴメントと出会うまでに十年の時が流れている。それは原久との出会いであった。原久は今の日本では珍らしい存在である独立時計師。原久が完成させたのはこれまでに例のないバゲット状のムーヴメントだった。ムーヴメントはふつう円形であることが多く、その場合、ジュエルリー・ウォッチでの挑戦的なデザインは望めない。バゲット・ムーヴメント。それは極小の機関車でもあるかのように、円運動が漣のように縦に伝えられてゆくのである。

清田はこのミクロの機関車を手にして、「オール・スケルトンでなければ」と考えた。360度から極小の機関車を常に眺めることのできるデザイン。そのためには透明の、円筒形の王宮が必要になる。 やっとのことでその透明の王宮が見つかった時、清田の頭の中で火花がスパークした。一気にデザインが完成したのである。ミクロ・ロコモーティヴを閉じ込めたペンダント・ウォッチは、日本はもちろん世界でもその例を見ない。

ところでこのミクロ・ロコモーティヴのペンダント・ウォッチの完璧なる美しさには秘密がある。完全なる立体、完全なる左右対称で、どこにも破綻がない。それはひとつには龍頭が省略されているからだ。いや、龍頭がないからではない。透明王宮の屋根であるルビーの部分が竜頭になっている。屋根というかティアラというか、美しいルビーに指を添えることで巻き上げが可能となるのである。

 

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ヴェネチアン・レースにヒントを得た、編まれたジュエルリー。それは単にレエス風というのではなく、実際に優美で、しなやかであり、心地良くフィットしてくれるのだ。 (左)K18WGダイヤモンドリング model:0-50-02117-A011 ¥1,386,000(込) (右)K18WGダイヤモンドペンダントブローチ model:3-50-04232-A051 ¥1,155,000(込) グリシアン・クルス(ギリシア十字)をモティーフに、精緻の限りを尽くしたブローチ。支えがまったく外にあらわれない、独特のチセー・セッティングによって完成されている。 K18/K18WGダイヤモンドペンダントブローチ model:2-50-03029-A041 ¥1,617,000(込)
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タンザナイトとゴールドのコントラストが美しい、ダブル・リング。大粒のサファイアを取り囲くセッティング自体が、砂漠を縁取る漣にも似た装飾になっている。 K18/Ptタンザナイトダイヤモンドリング model:0-50-00005-A001 ¥17,640,000(込) 古代ケルト文化によって築かれた、ドルメン(巨大記念物)でもあるかのような、シールド形のリング。左右、上下のシンメトリーがバロック音楽を奏でるような美しさである。(左)K18/K18WGダイヤモンドリング model:0-50-00002-A071 ¥2,887,500(込) (右)K18/K18WGダイヤモンドペンダント model:2-50-04095-A021 ¥630,000(込)

 

●問い合わせ スタジオキヨタ
TEL:055-251-4100
http://www.cisey.jp/

 

出石尚三
1944年生まれ。64年にファッション界に入り、以来ファッションをテーマにデザイン、コンサルティング、評論など広い分野で活躍。著書に「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)、「ブルー・ジーンズの文化史」(NTT出版)など多数。近著「スーツの百科事典」(万来舎)は、男性のスーツ姿がいかにあるべきかを説いて好評。

 

撮影/内藤サトル

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