出石尚三セレクション[第2回] – 伊勢志摩英虞(あご)湾 幸運を十倍にしてくれる真珠の物語

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真珠の価値は、大きさ、形、色、エクボ、真珠層の巻き厚、光沢の6つの要素で決まる。真円真珠は「神縁」真珠といわれ、神が興した奇跡として珍重された。母なる海で6年にもわたって育まれ、日々の貝掃除などの多くの手間暇をかけた献身的な作業の積み重ねによって生まれた、最高級の品質である真珠の最高峰。9.5mm以上の真珠のできる確率は0.0001%にも満たない。ましてや10.5mmともなれば何年に1本創れるかどうか。このネックレスは、ほぼ11mmに近い大きさ。現在の海の状況から考えても、今後制作可能かどうか判らない最後の奇跡となるかもしれない逸品だ。
天然あこや 真珠ネックレス(外側) 伊勢志摩英虞湾産 カラー:ホワイトピンク 大きさ:10.5〜11mm珠 クラスプ:ホワイトゴールド 12,600,000円(税込) 天然あこや 真珠ネックレス(内側) 伊勢志摩英虞湾産 カラー:ナチュラルブルー 大きさ:10.5〜11mm珠 クラスプ:ホワイトゴールド 9,975,000円(税込)

 

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希代の女王が愛した宝石

クレオパトラと真珠の話はあまりにも有名であろう。クレオパトラがアントニウスの前で、ワインの杯に真珠を投げ入れ、それを飲み干したというのである。一説にそれは酢であったともされるのだが、酢にせよワインにせよ、それで真珠が溶けるわけではない。クレオパトラは真珠をいわば丸薬として飲んだのだ。

 

クレオパトラがアントニウスに出会うのは、紀元前41年頃のことで、女王28歳頃ということになる。真珠を平然と飲み干したクレオパトラを見て、アントニウスは心を傾ける。このエピソードが後に結婚に至るきっかけとなったものと思われる。そのクレオパトラの真珠とは、女王の両耳を飾っていたイアリングであった。その当時の推定価格、37万5千ドルであったという。現在の価格に換算するなら、おそらく天文学的数字になるのではないたろうか。

アントニウスは、それほどに豪胆な女王に惹かれたのであろう。一方、クレオパトラは、不老長寿の薬である真珠を飲むほどに、自らの生命と繁栄とを大切にしている、との印象を与えたかったのかも知れない。今も昔も、真珠には不思議な、霊的なパワーが秘められている、と信じられているからだ。

純粋、無垢、永遠なるもの

真珠をこよなく愛した女王としては、日頃からパールのブレスレットを好み、扇子の縁取りにさえも真珠をあしらったというエリザベス1世(1533〜1603)を挙げなくてはならない。1588年にジョージ・ゴーワーが描いた肖像画を見ると、エリザベス女王はまさに真珠に埋もれているかのようである。髪飾りに真珠をちりばめているのはもとより、イアリング、ネックレス、衣裳の隅々にまで無数の真珠が縫い込まれているのだ。

 

そして衣裳を洗濯する時や、別の衣裳に付け替えるときには、当然、真珠を外し、また縫い付ける必要があった。そのために女王には数多くの裁縫師が従っていたのである。さしずめ今なら、「パール・チェンジャー」とも呼ぶべき職業であったのかも知れない。

ある時、エリザベス女王の侍女のひとりである、レディ・ハワードが美事なヴェルヴェットの衣裳にパールをあしらってあらわれた。と、女王は「そのドレスは私が着るべきだ」と言ったと伝えられている。ーーここまでくれば立派な真珠信仰と言って良い。もっとも父王、ヘンリー8世(1491~1547)もまた、真珠信仰の持ち主であったから、エリザベスの真珠への執着は遺伝でもあったのだろう。

そしてもうひとつには、自ら処女王と称したように、真珠に処女性の象徴があると信じていたのである。真珠はこの上なく純粋であり、無垢であり、永遠なるものの結晶だと感じていたのだ。少なくともエリザベス女王が、真珠を身に着ければ着けるほど、自らの心と体が純化されると、信じていたことは間違いない。

 

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あこや真珠のナチュラルカラーの中でも人気の高い淡いブルー系。もちろん、一切の加工などを施していない天然色。カラー、形、巻き厚、光沢の品質が揃い、かつ10.5mmアップの真珠は、奇跡の積み重なりでしか実現し得ない希少価値のある一品。
天然あこや真珠 カフリンクス 伊勢志摩英虞湾産 カラー:ナチュラルブルー(天然) 大きさ:10.5 ~ 11mm珠 台:ホワイトゴールド 840,000 円(税込)

 

海から生まれた神秘の珠

そなたの流す涙の滴は、優れた真珠をかたちづくり勝ち得たこの幸福を、十倍にも増して再び我に返すなり

これはシェイクスピアの史劇「リチャード三世」の一節。15世紀頃、すでに真珠の持つ神秘性は識られていたのである。なぜ真珠が生まれるのかも神秘であったし、またその完全なる美しさゆえ、人智の及ばぬ魔力を持っているだろうことも。

真珠の神秘。これは21世紀の今もそれほど変わっていないのではないか。いのちかつて真珠は千にひとつの生命、と言われたものだ。千個の貝を開けて、そのうちのひとつに真珠が生まれていれば、幸いだと考えられたのである。しかしそれは単なる真珠なのであって、美しい、大粒の真珠ともなれば千はおろか、十万個、百万個の貝にひとつあるかないかの幸運なのだ。完璧なる真珠が、砂丘で金を探す以上の、エリート中のエリートであることがおわかり頂けるであろう。

真珠の美質についてはよく「マキ「」テリ」などの言葉が使われることは、ご存じの通り。しかしこれについてもすべてが解明されているわけではない。貝の身がある異物を感じ、それに対して身を守るために、貝の真珠層を抱き込むことによって、真珠が生まれる。ここまでは誰もが知っている事実である。が、美事な真珠が誕生するには、見事な真珠層が不可欠である。真珠層の美しさは、水質や水温、波の動きなどによって左右される。ただ、それ以上の細密な条件となると、もう天の恵み、宇宙の神秘と言う他ないのである。天が与えた絶妙なる揺りかごが日本の海であり、伊勢湾であり、鳥羽の沖という結論になってしまう。

完璧なる奇跡の輝き

サマセット・モームの短篇に『真珠の首飾り』があるのをご存じだろう。ここに登場するのはロビンソンという家庭教師。まがいものの首飾りを修理に出したところ、先方の手違いで、数千万円という本物の真珠の首飾りが返ってくる。一時的にせよ、ロビンソン先生はその本物の真珠を身に着けたために、その後の人生が一変するという物語だ。少なくともこの小説を読むかぎり、真珠には魔力が秘められていると思えてくる。

 

そして今回、ここに紹介させて頂く真珠の首飾りは、モームの小説よりもさらにすばらしい芸術品であろう。これは、10.5ミリ超の大粒真珠である。ごくまれに、これほどの大粒真珠が生まれることもあろうが、首飾りにするほどの、粒揃いの、完璧なる真珠が、こうも並べられるのは、奇跡と言わなくてはならない。私も長生きをして良かったと思う。これほどの、見事な首飾りを目にすることができたのだから。おそらく、私の人生の中で、もう二度とこれほどに大粒で美しい真珠の首飾りに出会うこともないだろうから。

 

 

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核の入っていない、けし珠真珠の中でも、1mmに満たない砂の粒のような大きさなのに丸い形をしているものは、他に類を見ない。この小さな珠の真ん中に穴をあけて糸を通すという気の遠くなるような作業は熟練の技術者にしたできない至難の業である。
天然あこや真珠 砂けし珠30連ネックレス 伊勢志摩英虞湾産 カラー:ホワイト(天然) クラスプ:ホワイトゴールド 1,050,000 円(税込)

出石尚三 1944年生まれ。64年にファッション界に入り、以来ファッションをテーマにデザイン、コンサルティング、評論など広い分野で活躍。著書に「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)、「ブルー・ジーンズの文化史」(NTT出版)など多数。近著「スーツの百科事典」(万来舎)は、男性のスーツ姿がいかにあるべきかを説いて好評。

 

 

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pearl.japan@borboletta.jp

撮影/内藤サトル

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