エアロコンセプトが作り出す鞄の進化形 – ジュラルミンに生命を吹き込む詩人

Decrease Font Size Increase Font Size Text Size Print This Page

 

Qrs 1
収めるギターの形状に合わせてサイズや内装を変えるため、全く同じギターケースは二つと存在しない。参考商品

 

日本ならではの風習のひとつに千羽鶴がある。千羽の鶴。しかしそれは本物の鶴ではなく、折紙の鶴。赤や黄や緑など、様々な色の紙を折畳んで鶴の形に仕上げるのだ。もちろんこれにも上手下手があって、上手の人が折ると、極小の紙の鶴がまるで生きているように思えてくるのだから、不思議という他はない。

千羽鶴の習慣は二十一世紀の今でも生きていて、たとえば病気で療養中の知人に贈ったりもする。それには、「早く元気になって下さいね」との祈りが込められていて、贈られた側でも毎日千羽鶴を眺めて、一日もはやい回復を願うのである。

千羽鶴は単なる迷信だろうか。必ずしもそうとばかりは言えない。一羽の鶴を折るとき、折り手は相手に願いを込める。知人の顔を思い浮かべ、「元気になりますように」と、祈る。その祈りは少なくても千回は繰返されるのである。千羽鶴は祈りの象徴であって、その中に目には見えない「ある力」が秘められているのではないだろうか。その「ある力」が病気中の人に良い、精神的な影響を与えることはあるに違いない。

鶴は一例であって、日本人はこれまでにもありとあらゆる物や形を、紙で折ることで表現してきた。折紙。折紙は幼児の遊びであり、また紙による芸術品でもある。折紙がいつ、どのようにはじまったのかは定かではない。定かではないほどに、古い歴史があるのだ。

 

Qrs 2
鏡面に規則的に打ち込まれたリベットが美しい

 

古くは「折形」(おりかた)と言ったようである。折形は相手に物を贈る時に、その物を包む礼法であった。少なくとも平安期から行われていたようだから、千年以上の歴史があることになる。礼法であるから様々な流派があって、たとえば小笠原流折形、伊勢流折形、吉良流折形などが有名であったという。

もともとは礼法のひとつであった折形がやがて遊戯ともなって、「折紙」(おりがみ)となるのである。いや、折紙にはもうひとつの意味「鑑賞保証書」がある。たとえば骨董品などを専門家が鑑定する時、それが本当に優れたものであった場合、礼法に従って立派な折形(折紙)による鑑定書を添えたことによる。そこで今でも「折紙付き」といえば、特別の一級品を意味するのである。

エアロコンセプトの菅野敬一は、ジュラルミンをまるで紙であるかのように扱う名人である。あの気難しいジュラルミンが、菅野敬一の手にかかると、紙のような優しい心を持ちはじめるのだ。

ジュラルミンは1903年、ドイツ西部の小さな町、デューレンで生まれたアルミ合金である。アルフレッド・ウィルによって考案され、特許が得られている。ふつうジュラルミンは、アルミニウム94%に、銅を4%、それにマグネシウムを少し加えることによって、驚異的な硬度を発揮する。硬くてしかも軽いのだ。

この上なく強くて、この上なく軽い金属ということから、当然、飛行機に使われるのはご存知の通りであろう。菅野敬一もまた飛行機を通じて、ジュラルミンの特質に惚れてしまったひとりなのだ。

 

Qrs 3
下げているだけで心が弾むショルダーケース。参考商品

 

Qrs 4
ジュラルミンのケースに革をあしらったブリーフケース。参考商品

 

しかし菅野はその時ふっと思った。「よし、コレがたしかにこの世に生きていたことの証明の品を創ってやろうじゃないか」と。そこで自分用のアタッシュ・ケースを創った。自分用の鞄であるから、趣味であり、道楽であり、売るつもりは毛頭なかった。その材質、いつも使い慣れているジュラルミンを選んだことは、当然のことであろう。

ジュラルミンを、さらに紙のように軽くするには、ふたつの方法がある。ひとつはジュラルミンを極限まで薄く仕上げる。そしてもうひとつはジュラルミンに穴を開けることによって、軽くする。ただし紙のように薄くしたジュラルミンでは形を保たないので、折って重ねる。ジュラルミンの折紙、そういって間違いないのである。

軽さと、強さとの、ぎりぎりまでのせめぎ合い、それが菅野の腕の見せどころなのだ。仮に、ひとつのシーソー台があるとして、右に「軽量」を置き、左に「強度」を置く。それできっかり水平に均衡が保たれる一瞬、一点を探し求めるのだ。エアロコンセプトの鞄たちが美しいのは、その一瞬のバランスが完璧に保たれているからなのだ。

エアロコンセプトの鞄は、細部に至るまで、触り、愛撫するのが愉しくなる。ノブひとつが指先になにかを語りかけてくるのだ。手触りの美学とでも言えば良いだろうか。

さらにエアロコンセプトの鞄は音までもが美しい。たとえばアタッシュケースの場合、テーブルの上に水平に置き、両手でロックを外してから、上蓋を持ち上げる。必要な書類を取り出した後、上蓋を閉める。この時、ロック機構が「カシャッ」と歌うのだ。「カシャッ」。これは菅野に言わせると、バルナックル型ライカ3Fのシャッター音に似せているのであるとのこと。名器中の名器として知られるフェンダー・ギターが、「ぜひケースを」と注文したくなるのも、当然であろう。菅野敬一は、ジュラルミンに生命を吹き込む、世界でたったひとりの詩人なのだから。

 

Qrs 5
頑丈な印象の中にも美しさや軽さが感じられる旅行鞄。 参考商品

 

Qrs 6
Qrs 8 Qrs 7
最新作は買い物カゴの未来形(写真上)。参考商品/金属製でありながらしなやかなトートバック(写真下右)。参考商品/筒のような形状のショルダーケース(写真下左)。参考商品

 

●問い合わせ エアロコンセプト http://www.aeroconcept.co.jp/

 

出石尚三
1944年生まれ。ファッションをテーマにデザイン、コンサルティング、評論など広い分野で活躍。著書に「ブルー・ジーンズの文化史」(NTT出版)など多数。近著「スーツの百科事典」(万来舎)は、男性のスーツ姿がいかにあるべきかを説いて好評。

 

撮影 / 内藤サトル

この記事の感想
  • とてもおもしろく役に立った (1)
  • おもしろかった (0)
  • 役に立った (0)
  • つまらなかった (0)