極限まで細いインスリン用注射針「ナノパス34G」

Decrease Font Size Increase Font Size Text Size Print This Page

糖尿病に罹る子どもも増えている。そうした状況を見たテルモの開発スタッフが執念で作り上げた、注射針のひとつの到達点である。

Needle to release from the stress of pain

_G8E0156

A根元から刃先にかけて、緩やかに絞られている「ダブルテーパー構造」を採用。

Bナノパスの、刀のような刃先。線で肌を切るため、痛み、肌へのストレスが少ない。

QR.2

Needle offers relief from pain and stress

極限まで細いインスリン用注射針「ナノパス34G」

撮影/内藤サトル 文/JQR編集部

5年の歳月を費やし製品化
された、痛みから患者を
解放する注射針

 子どもに限らず、大人にとっても“痛い”注射はとても不快なものだ。やむにやまれぬ時なら我慢もできよう。だが、日常的に注射を打たれるとしたら・・・・・・。
 この辛さに耐えているのが糖尿病患者である。血糖をコントロールするためのインスリン注射は症状によって日に1〜4回ほど。それを365日欠かすことができない。痛さもさることながら、習慣的な穿刺による皮膚へのストレスがきつい。
 その負担を和らげる注射針の開発を手掛けたのが、医療機器メーカーのテルモである。目指すは、肌の痛点(1㎠あたり100〜200個ある)を避けられる33G(※)の注射針「ナノパス33G」。先端部の外径はわずか0.2mmである。
 注射針は、金属の板を筒状に形成し、それを引き延ばし切断して作るのが一般的だ。細くするのは簡単そうだが、実は細くすればするほど針内の抵抗が増し、目指す注射針の内径では薬液は流れない。そこでテルモの開発チームは内径、外径とも根元が太く、先端に向かって緩やかに細くなる「ダブルテーパー構造」を採用することにした。それにより薬液は針内をスムースに通るようになる。「1枚の板を丸め、最初から細い針を作る」と、従来の発想を大きく変えた訳である(右下図参照)。
 前例がない形状のため、テルモの技術者は、製作パートナーを探しに町工場や企業を100社以上回った。そしてたどり着いたのが、金型技術で知られる岡野工業だった。「その岡野さんをしても、手強い挑戦だったようです」と開発チームのメンバーだった松野孝生氏が振り返る。納得がいく仕上がりまでに、3年の歳月を要したのだった。

05単独で見ると分かりづらいが、32G、33Gと比べると、34G(中央)の細さは一目瞭然。

ハンドリングに苦労する

 プレス機が金属の小板を微妙な力加減で挟むことで徐々に丸め、外径僅か0.2mmの注射針になるパイプができる。後は溶接し、刃先を付けて組み立ててれば完成だ。
 スタートから3年を経て、ようやく見えたゴールだったが、ここで思いもしない問題が持ち上がった。出来上がった注射針をまとめると、針の先が、他の針の根元に入り込んでしまうのだ。注射針自体のバランスも悪く、真っ直ぐ並べるのにも苦労する。ひとつふたつならまだしも、何千、何万という針を効率よく加工するためには、一本一本をきちんとハンドリングしなければならない。新しい製造ラインを完成させるために、更に2年がかかってしまった。

c
「ダブルテーバー構造」の展開図

日本刀のような刃先

 「ナノパス」は注射針の細さに加え、実は刃先の形状にも痛くない工夫を施している。一般的な注射針は、左右対称で円錐形に尖った刃先だ。そのため肌の一点に針先の圧力が集中し、「チクッ」と刺すような痛みを伴う。一方、ナノパスの刃先は非対称で刀のような形状を取り入れた。刃先は肌に線で当たり切り裂くため、周囲の痛点を巻き込むこともなく、針先が肌にスッと入っていく。
 こうして世界一細く、痛みのないインスリン用注射針「ナノパス33G」が2005年に発売された。そして2012年にはより細い「ナノパス34G」が登場したのである。針先の外径が0.18mmと極細い注射針は、多くの糖尿病患者の日々の痛みのを和らげることになる。

この記事の感想
  • とてもおもしろく役に立った (8)
  • おもしろかった (0)
  • 役に立った (0)
  • つまらなかった (0)