ニッポンを話そう – 日本在住外国人による鼎談[第一回]

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通勤電車と電車事情

 

●Alison Watts
●陳燁
●Elena Harlamova

 

Hanasou top

 

ドアからはみ出たおしりを駅員にギュウギュウ押され、すでに満員にも関わらず、これでもか、と詰め込まれる……。過酷かつ我慢大会のような様子がおかしいようで、 海外のメディアは日本の象徴的なイメージとして通勤電車を度々報じています。 そんな日本の通勤電車を実際に体験している オーストラリア、ロシア、そして中国出身の 3 名の方に、お国の事情と照らし合わせて語っていただきました。日本の通勤電車はGOOD、それともBAD?

 

 

 

司会 皆さんの国の通勤電車事情を教えていただけますか。

アリスン オーストラリアで一番人口 の多いシドニーを例にとると、電車はたくさん走っていますが、それよりも車で通勤する人のほうが多いですね。だからオーストラリアで通勤ラッシュ といえば、電車よりも渋滞した道路を思い浮かべます。私の出身地、南オー ストラリア州のアデレードでは、電車はとにかく汚いし危ないし、できれば使いたくない……という感じ。それに、電車を使わなくても車でどこにでも行けますから、あえて電車に乗る必要がないんです。

エレナ 私はモスクワ出身で、今も2ヵ月に一度帰省します。モスクワの地下鉄は東京の電車とはかなり違いますよ。まず、日本だとホームに乗客がきちんと並んでいて、そこにドアが来るでしょ。モスクワでは運転士の気分で停車する位置が変わるので、乗客はホームで漠然と待っています。ラッシュの時など運が悪いと2、3本待つことすらあります。また、東京では朝夕とても混みますが、それ以外の時間帯は比較的空いていますよね。でもモスクワでは、ある程度の波はあるものの、終日変わらず混んでいます。

司会 車内では整然としているんですか?

エレナ 日本ではお互い譲り合いながら乗っていますが、モスクワの人たちはまるで“地下鉄は自分のもの”というような顔をしているの(笑)。日本と違って国が広いから、嫌だったら別のところに行けばいい、というような考えの人が多いんですよ。そういう人たちが狭い地下鉄に乗ると、もう大変。大声で話す、ときどきケンカも起きる。逃げられないから、それにみんなが参加する。モスクワの地下鉄に乗ると、ほんとうに消耗します(笑)。

中国も昔はそうだったなあ。ぼくも毎月上海に帰りますが、上海には1995年まで地下鉄がなかったんです。その前の交通手段と言えばバスと、かの有名な自転車だった。車もあまり多くはなかったですね。当時は朝7時くらいにバスに乗るとものすごい混みようで、上海人は短気だから、足を踏んだ、ぶつかったとすぐにケンカになった。当時は痴漢なんていう言葉もなかったんです。なぜなら乗るだけで精一杯で、それどころじゃないから(笑)。でもこの10年ほどの間に、経済の発展に伴って人々の気持ちに余裕が生まれたのか、だいぶ落ち着いてきたように感じます。最初の路線ができたのが95年で、2012年には13路線目ができる予定。上海の人たちは、今はケンカよりもお金儲けに忙しいようですね(笑)。

司会 国の経済状況は電車の中の風景にも影響してくるんですね。ところで、日本の電車のいいところって?

エレナ まず、とても明るいですよね。山手線と京浜東北線が重なって走るところがありますが、私はわざわざ車内が明るい山手線を選んで乗ります。

アリスン 日本の電車は、とてもきれいで清潔ですよね。私は電車に乗るのが大好き。中吊り広告は私にとって大事な情報源です。雑誌の見出しを読んで新しい単語を覚えたり、美術館の展示のことを知ったり。ドアの上のモニターで天気も教えてもらえますし(笑)。飽きることがありません。

エレナ そうそう、日本の電車は情報満載。私はモニターから流れる英語のレッスンがお気に入りなの。路線によって広告も違うし、ローカルな情報が得られるのがいいですね。それに、インフォメーションシステムが素晴らしい。地下鉄の駅はそれぞれM3などの番号がついているから、間違えることがないんです。日本語がわからない外国人には、とくに助かりますね。

情報という視点で見れば、上海のほうが数段進んでいます。もう、そこいらじゅうがモニターだらけ。地下鉄はもちろん、タクシーにもモニター、エレベーターにもモニターで、無理やり情報を押しつけてくる。ちょっとtoo muchという気がします。私としては半分賛成、半分不愉快、かな。

 

Hanasou naka

 

司会 車内で携帯電話は使えますか?

上海の地下鉄は全線、電波が届くし、車内での通話が許されています。みんな普通に携帯で話してますよ。

エレナ うるさくないの?

大声では困るけど、周りの人もほとんど気にしてませんね。地下鉄の中から、「駅まで迎えに来て」と家内に電話することができるから便利です。日本は規制しすぎなんじゃないかなあ。これはするな、あれはするなと言い過ぎる。だから進歩が止まってしまった。

アリスン オーストラリアでも携帯の使用はOKですが、私は日本のやり方のほうが好きですね。電車に乗っている時は他の場所に動けないし、できれば静かに過ごしたいと思うから。

エレナ ロシアでも誰もが携帯で話しています。大声で話している人が近くにいると嫌ですね。私もその点では日本のファンですよ。モスクワの通勤電車は、A地点からB地点に移動するためのただの手段。ちょっとの間だからと我慢するんです。一刻も早くここから逃げ出して広い場所に出たい!という感じ。でも日本はどうでしょう。駅だって広くてきれいだし、買い物もできれば食事もできる。それこそ駅の中だけで半日過ごすことも可能ですよね。本当に素晴らしいと思います。モスクワの地下鉄の駅には、トイレさえないんですから!トイレに行きたい時はどうしたらいいの、って市長に聞いてみたいわ。

サービス精神の問題ですね。上海も昔は公衆トイレがとても少なかった。今でこそ駅に一ヵ所はあるけど、十分とは言い難い。これも日本のサービスの質の表れではないでしょうか。私はおいしい食べもの、素晴らしい商品と並んで、サービスの質の高さが日本を代表する長所だと思います。電車に乗っている時にもそれを感じますね。

アリスン そうですね。駅員さんもとにかく親切でやさしい。どんなに混んでいても丁寧に案内してくれます。私も何度助けてもらったかわからないくらい(笑)。

司会 日本人の私は、最近マナーが悪くなったと感じていますが。

母親が久しぶりに日本に来て、10年前に比べて日本人のマナーは悪くなった、街も汚くなったと言っています。それでも、まだいいほうだと思いますよ。みんな礼儀正しいし、エレナさんが最初に言ったように、譲り合いの心を持っている。

アリスン 地下鉄のホームでは、マナーを教える広告が目につきますね。足を広げないとか、音漏れ注意とか。私も、お年寄りや妊婦に対して心配りが出来ていないと感じています。席も積極的に譲ろうとしないし。かえって、元気な子供を座らせたりしている。あれは不思議で仕方ありません。

エレナ 文化の違いでしょう。ロシアでは、お年寄りが乗ってきたら若者はすぐに席を立って譲ります。条件反射みたいにね。日本の文化には、他人のプライバシーを尊重し、あまり踏み込まないほうがいい、という考えがあるのかもしれない。かえって失礼になるんじゃないか、というようなね。

最近では、エレベーターで乗り合わせても挨拶をしない人が多くなりました。ところが、こちらから「こんにちは」と言うと、たいてい挨拶を返してくれる。日本人はシャイなんでしょう。もしかしたら礼儀の問題ではないのかもしれない。気持ちはあるけれど、自分から言うのは恥ずかしい、目立ちたくない、そんな心理なのかも。

アリスン 挨拶については、都会と田舎ではずいぶん違いますね。私は茨城に住んでいますが、知らない人でも外国人に会ったら「ハロー!」と言います。日本人でももちろんあいさつします。東京でもつい言いたくなっちゃうんだけど、あ、いけない、と思ってやめるんです(笑)。

エレナ 都会では誰もがストレンジャーですものね。

アリスン iPodや携帯がなかった時代は、電車の中でも、もう少し周りに意識を向けていましたよね。ちょっとした言葉を交わすこともあったり……。でも今は、音楽を聴いたり携帯でメールしたり、人に囲まれていても自分だけの世界に入り込んでいます。それによって、人と人との関係が変わってきたなと感じます。それも無縁社会になる一つの要因かもしれません。

エレナ 田舎に行くとまた違うんですけどね。必ず土地の人に話しかけられます。都会の、しかも通勤電車の中では、精神的なゆとりもないですし。ある程度シャットアウトしないと、疲れきってしまう。

アリスン 私が来日した当時、毎日、日立製作所に通勤する人たちでぎゅうぎゅう詰めの常磐線で通っていました。人間関係では距離を置く日本人が、こんなに密な電車に乗っていられるギャップに驚きましたね。

司会 日本の通勤電車に“こうしてほしい”と思うことはありますか?

アリスン もっとユニバーサルな造りにしてもらえたらと思います。お年寄り、障害のある方にとっては使いにくい場所がまだまだあるように感じますね。

これ以上求めることはありません。夜遅くまで走っているので、残業してもタクシーを使わなくていいので助かっています(笑)。

エレナ 私の希望は温度調節かしら。冬はみんな分厚いコートを着て乗ってくるのに、車内の温度は必要以上に高いでしょう?制服姿の車掌さんに合わせているのかと疑いたくなりますよね(笑)。でもあとは大満足。明るいし安全だし、アトラクションはたくさんあるし、そう、私から見たらまるでディズニーランドですよ!

 

Hanasou elena

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Elena Harlamova
(エレナ・ハルラモワ)

モスクワ出身、在日 23 年目。ロシア語の通訳、翻訳 家として活動し、その専門分野は旅行からコンピュー タ、政治、歴史と多岐にわたる。テレビ、新聞、雑誌 などのメディアでも通訳や取材コーディネイトなどで 活躍。旅行コンサルタントの顔も持つ。

Alison Watts
(アリスン・ワッツ)

オーストラリア アデレード出身の和英翻訳家。茨城 県在住、在日 24 年目。仕事のかたわら、15 歳の息 子と 10 歳の娘の子育てに励む。趣味は朗読と音楽。 日本の自然風景も大好きで、時間があるときには登山 やハイキングを楽しんでいる。

陳 燁
(チン・イェ)

上海生まれ、在日 23 年目。東京のデザイン会社に6 年間勤務後、日本企業の中国市場進出を広告デザイン の側面からサポートすべく(株)レクシスクリエイテ ィブを設立。代表取締役社長。現在は東京と上海が半々 の多忙な日々。趣味は旅行、写真。

 

参加者募集!
JQR ではこの鼎談に参加してくれる日本在住の外国人を募集しています。日本語の会話が出来て、 日本に関することについて話したいと思っている 人、ぜひご応募下さい。 応募はメールで、info@jqr.sakura.ne.jpまで。

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