それ以上でもそれ以下でもない、という矜持

依頼に忠実にコートを仕上げる
正確無比の縫製工場

青森県上北郡七戸町 株式会社サンヨーソーイング(J∞QUALITY認証企業)

厚手の生地1mをミシン目揃えて真っ直ぐ縫い上げるのは難しい。
それを幾百枚も変わりなく仕上げる縫製工場がある。
平均勤続年数20年の熟練たちが、最高品質のコートを世に送り出している。

取材・文/JQR編集部 写真/熱海俊一

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1.『控えの理論』を説明する工場長の和田秀一氏。2.生地と糸の縮みや張りを予測してミシンを掛ける。3.仕様書には細かなディテールや縫い方などの指示が書き込まれている。4.ラインの途中途中でしっかり検品。全行程で4回行われる。5.パーツの角を幾百枚縫ってもステッチは同じ仕上がり。6.縫い上がったコートを一枚一枚丁寧にプレスする。この後、付属品を装着して最終検品に回す。

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株式会社サンヨーソーイング
青森県上北郡七戸町字荒熊内67-18 TEL:0176-62-2011

ストンと落ちるトレンチコートの前端は、品質を語る顔である。顔にシワがあるコートはいただけない。厚い生地にシワをよせずに縫うのには高い技術が必要だ。サンヨーソーイング株式会社の工場長、和田秀一氏が解説する。
「ミシンで縫うと必ず縫い縮みが出ます。ですから詰まると前もって想定して、生地を引っ張りながら縫います。同様に、ミシンの糸も引っ張る力に応じて伸びます。縫い終わると糸が戻ろうとするので、その分量を予め見込んでミシンを掛けるのです」
 生地と糸の伸縮を瞬時に察知し、その誤差を調整して縫うと言うことだろうか? 和田氏が続けた。
「言葉ではなかなか言い表せないんです。オペレーターにそこまでのスキルがあるということですね」
 私たちの目の前で、オペレーターが右手で生地を手前に引きながら、左手でミシン目を調整しつつ生地を縫い上げていく。そこには何の迷いもない。視線は針が上下する一点に注がれ、手だけが別の生き物のように動く。傍らには、縫い上げたばかりのコートが重なっている。襟のカーブを縫う時には糸目が緩くなり、それは指の感覚で糸調子を調節しながら縫い上げる。別のミシン台にはフラップポケットが重なっていたが、いずれも寸分の狂いなく、角のステッチがぴたっと決まっていた。

技術をどのように継承していくかが課題と語る、代表取締役社長の横井享氏

技術をどのように継承していくかが課題と語る、代表取締役社長の横井享氏

 サンヨーソーイングはコート主体の縫製工場だ。その技量は日本屈指との評判だが、それは奇跡的なことだと社長の横井享氏は言う。30年前に比べ、今では日本の縫製工場は1割に満たない。「コートに特化してきたことで、工場は卓越した技術を身につけた」と考える。
「同じ糸でも質が微妙に変わることがあります。それを瞬時に変だなと感じる。そうした感覚を持つ工場が、優れた工場になるのです」
 縫製の発注を受けてまず手がけるのが素材の物性テストだ。生地の変化を見極め、それを予め把握してからパターンを作る。アパレルメーカーから受け取るイメージパーツはトレンチコートで60〜70ほど。それを実際の作業用に140〜190パーツに起こし、仕様書を作成。そこには縫い方やディテールが表記され、それを元にサンプルラインで試作する。そこで問題点を抽出し、ひとつひとつ改善してから量産ラインに流す。
 和田氏が完成したトレンチコートの襟を裏返した。
「ここの仕上げは『控え』と言って、0.5mmだけ表を出し裏を引っ込めているんです。これをパターン設計で盛り込んでいます。ラペルの返りも同様です」
 この作業により、見た目もすっきりしたコートが仕上がる。だが、これを縫い込むのは素人目にも容易でないことが分かる。素晴らしいコートは、技術と情熱を併せ持つ人々が産み出している。

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