小さな土地に幸せな家を設計する

依頼人の夢を諦めさせない建築家!

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『ちっちゃな家の空間3原則』を考案し、
依頼人の理想の家を実現する、建築家の杉浦伝宗さん。
狭いという都会の制約のなかで、
機能的で暮らしやすい家を生み出している。

アーツ&クラフツ建築研究所を率いる杉浦伝宗さん。第一人者とあって、依頼者の7割が小さな家だという。

アーツ&クラフツ建築研究所を率いる杉浦伝宗さん。第一人者とあって、依頼者の7割が小さな家だという。

今から18年前のこと。建築家の杉浦伝宗さんのもとに舞い込んだ依頼は、わずか31.2㎡、9.4坪ほどの土地に住宅を建てるというものだった。そのような狭い土地に建つ家など考えたことがなかった杉浦さんは、これを一つの課題として取り組むことにしたのである。
「限られたスペースを快適な空間にするという難しいテーマでした。考え抜いて出した答えが、『透ける、抜ける、兼ねる』という、私が『ちっちゃな家の空間3原則』と呼ぶものです。この3原則を活用すれば、限られた土地でも快適な家をつくることができます」
 その3原則の一つ「透ける」とは、内部と外部の双方からの見え方を調整すること。空間を仕切る際に透ける素材を使い、人の視線や風・光の通りを確保するのである。
「メッシュ状の金属板、エキスパンドメタルを使い仕切りをつくると、家の内側からは外の風景を見ることができますが、家の外側からは中を見ることができません。光と風が部屋を抜け、視線の先にある外の奥行を見渡せます。開放的な空間が得られ、かつ居住者のプライバシーを保つことができるのです」
 2つ目の原則「抜ける」とは、壁や床の一部を取り除き、空間を拡大すること。狭小住宅では絶対的な面積が狭いため3階建てが多いが、たとえばその階段に網状の素材を使う。
「網状の階段であれば、夏に上の階で窓を開けると、煙突効果で風が下から上に吹き抜けとても快適です。また、天窓から差し込む光が下の階を照らし、室内が明るくなります」
 3つ目の原則「兼ねる」とは、庭と玄関を兼ねるなど、一つのスペースに複数の機能を持たせること。
「敷地面積のうち、通常住宅が占めるスペースは60%。それ以外の空間は40%です。玄関を住居内に置けば、それだけ狭くなりますが、庭を玄関に利用することで土地を有効に活用できます。家の外と中を一体化させることは、小さな家の命です」
『空間3原則』は互いに作用しながら、狭さという制約の中に広い空間を出現させるのである。

日本の住文化の知恵を現代に生かす

 この『ちっちゃな家の空間3原則』は、そもそも日本の住まいに見られたものと、杉浦さんは言う。
「たとえば、日本の民家には必ず縁側がありました。来客とともに縁側に腰掛け、庭の木を眺めながら会話を楽しんだものです。昔の日本の住宅は、家の中と外が一体化していたのですね」
 杉浦さんは設計する際、狭いスペースでも1階に必ず木を植える。空間に奥行きを出すことが目的だが、家の外、つまり自然を楽しめるという狙いもある。
「風が吹けば葉がカサコソと音を立て、日が昇るにつれて木の影も移動します。落葉樹を植えるようにしているので、春には芽が吹き、夏に花が咲き、秋になれば実がなって、冬が来ると葉が散る。こうして四季を感じることができる。自然と共生するという、まさに日本の文化ですね」

港区北青山のオフィス内。この18年で、数多くの狭小住宅の設計を担当してきた。ちなみにこれまで手がけた狭小住宅の最少敷地面積は7坪(最少建坪は4.3坪)だという。

港区北青山のオフィス内。この18年で、数多くの狭小住宅の設計を担当してきた。ちなみにこれまで手がけた狭小住宅の最少敷地面積は7坪(最少建坪は4.3坪)だという。

狭小住宅が増加した背景と平均的な予算

 ところで、日本の住宅は必ずしも小さなものが多かったわけではない。杉浦さんによると、1990年代以降、狭小住宅の需要が増大したことには、いくつかの社会的な要因があるという。震災によるマンション不安からの一戸建て志向、少子化など家族構成の変化にともなう大きな住宅の必要性の低下、ライフスタイルの多様化とともに増加した個性的な住宅への需要、女性の社会進出と共働き世帯の都心志向、などだ。
「長い間、日本では住宅はある程度の広さ、最低でも30坪程度の広さがなければ成立しないと考えられてきました。ところが、工夫することで小さな家でも十分快適に暮らせることがわかってきたのです」
 アーツ&クラフツ建築研究所を訪ねる依頼者には30代後半~40代の夫婦が多く、ローンの平均は5500万円ほど。この金額で都心に土地を買って家を建てるとなれば、土地の面積は10数坪にならざるを得ない。杉浦さんが設計してきた狭小住宅の土地面積の平均は約17坪、延べ床面積は約27坪である。建物の平均坪単価は89万円*前後で、工事費用は約2400万円*。しかしこれはあくまで過去のデータの平均だ。近年は工事費も土地の価格も上がっている。
「今であれば、小さな家なら建物の工事費は約3000万円。それに消費税、設計費が加算される程度**でしょうか。それに土地代が必要になります。都心の土地は高いですが、変形した土地であれば比較的安く買うことができますし、そうした土地に工夫して家を建てると、自然と面白い家ができあがります」

*いずれも税別
**金額は2015年5月 取材時

小さな家に住むのは損か得か

「空間の快適さには、広さのみならず、光、風、気温、香り、材料の 質感など、さまざまな要素が絡んでいます」と語る杉浦さん。

「空間の快適さには、広さのみならず、光、風、気温、香り、材料の質感など、さまざまな要素が絡んでいます」と語る杉浦さん。

 小さな家は土地代と建築費を安く抑えられる。コンパクトゆえ、冷暖房などのエネルギー効率もいいし、掃除などの手入れも簡単だ。小さな家に住むメリット・デメリットを、杉浦さんはどのように捉えているのだろうか。
「大勢の人が入ることをイメージすれば、小さな家はもちろん狭いですよ。しかし家は大きければよい、あるいは小さければよいというものではありません。大切なのは、その家で何をするのかであり、ライフスタイルと用途次第だと思います。たとえば郊外の家と都市生活の家とでは、必要とされる機能がまったく違う。都市生活では必ずしも客を自宅に招く必要はなく、近隣に気に入ったレストランがあれば、そこで来客をもてなすこともできる。都市生活の場合、都市の機能を使えるからです。従って、家は家族が楽しむことを中心に設計すればいいことになります」
 杉浦さんが設計した小さな家に住む家族に話を聞くと、できあがった建物は面積が限られているにも関わらず、満足度が非常に高いことがわかる。
「依頼人の家族が“住んで楽しい”と思える住宅ができた時、喜んでいる顔を見た時、この仕事をしていて本当によかったと思いますね」
 たとえ土地が狭くても、諦めてはいけない。相談する相手次第で快適な家が実現するのだから。

問い合わせ/アーツ&クラフツ建築研究所 TEL : 03-3402-5315

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