狭くても快適な我が家を建てるまで

「遠くて広い」より「近くて狭い」が正解!

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東郊外に大きな家を建てても毎日2時間30分の通勤はつらい。
一方都心は地価が高く、狭い土地では納得のいく家を建てられない。
そう思いがちだが、都心のわずか18坪(59.49㎡)の土地に
Kさん夫妻は理想の家を建てた。いかにして夢の家を手に入れたのだろうか。

Kさん一家は夫妻に一人娘、そして大きな猫2匹の所帯。三人が立っている場所が駐車スペース。

Kさん一家は夫妻に一人娘、そして大きな猫2匹の所帯。三人が立っている場所が駐車スペース。

玄関に立つと中庭までの空間が一直線に見通せる。そのため狭さを感じない。

玄関に立つと中庭までの空間が一直線に見通せる。そのため狭さを感じない。

渋谷駅から歩いて10分ほどの閑静な高級住宅地に、Kさん夫妻は家を建てた。それはとても小さな家だが、玄関を入れば見通しがよく、狭さを感じさせない。どのフロアもコンパクトで上質なつくり。広くゆとりがある家より、格段に住みやすそうだ。
 家が欲しいと思った頃、Kさんは郊外に広い家を持つか、それとも都心の狭い家で窮屈に暮らすか悩んだという。
「私はワーカホリックで、遅い時間に帰宅していました。それでも妻は毎日待っていてくれます。職場から遠くに住めば一層帰りが遅くなり、深夜を回るのは目に見えている。これ以上妻に負担をかけたくないので、住むなら都心と思っていたのです。できるなら、新しい文化が生まれる街、渋谷近辺に家を持ちたいと。でも、土地の値段を考えると、それは夢のまた夢。実現するとはつゆほどにも思っていませんでした」 
 そんな夫妻に思いがけない転機が2009年に訪れた。知人に渋谷の土地の所有者を紹介してもらい、売却交渉の機会を得たのである。
「ここでどんな生活がしたいのか、土地の所有者に熱く話しました。
すると『持っている土地が役に立つのなら』と、売却を決意してくれたのです」
 旗竿型という変形地でわずか18坪。そのため購入価格は安く抑えられた。Kさん夫妻は、都心の高級住宅街に土地を手に入れ夢の扉を開けたのだった。

白く透ける軽やかならせん階段を通し、窓から柔らかな光が半地下に降りそそぐ(写真上)。中庭で伸びる竹。中庭の外壁にはルーバーが使われ、外部から光が射し込むが、建物の外から中を覗くことはできない (写真中)。子ども部屋に続くハンモックスペースは、娘さんのお気に入り(写真下)。

白く透ける軽やかならせん階段を通し、窓から柔らかな光が半地下に降りそそぐ(写真上)。中庭で伸びる竹。中庭の外壁にはルーバーが使われ、外部から光が射し込むが、建物の外から中を覗くことはできない (写真中)。子ども部屋に続くハンモックスペースは、娘さんのお気に入り(写真下)。

一瞬で萎んだ夢がまた膨らんだ出会い

「土地の購入が決まってから、二人で建てる家のイメージを話し合いました。日常から隔絶した、リゾート感覚がある空間。それでいて機能的な家がいいねと」
 そのイメージをKさんがコンセプトシートにまとめ、インテリアデザイナーの奥さんが図面を引いた。それを携え二人はハウスメーカーを訪ねたが、そこで待っていたのは失望ばかりだったと言う。
「担当者に私たちの希望を話すと、顔を曇らせ『無理です』と。『これじゃ儲からないので、うちではやれません』と言われてしまって・・・・・・」
 代わりにハウスメーカーは自社プランを提示。仕方なく、二人はそのプランを見ながら細かな要望を伝えるものの、ハウスメーカーは追加オプションを提示するだけだった。
 土地が手に入り膨らんだ夢が、一瞬で萎んでしまったように感じられた。だが、Kさん夫妻は、それなら自分たちで建てようと、建築家を探すことにしたのである。そして、狭小住宅を数多く手がけている建築家、杉浦伝宗さんを探し出し、依頼の相談に出かけたのだった。
「コンセプトシートと図面を杉浦さんに手渡すと、『こんなに具体的に考えている人は初めてだ』と喜んでくれました。旗竿型の土地は珍しいらしく、杉浦さんの建築家としての情熱を刺激したようです。『ぜひあなたと仕事がしたい』と言われた時には、飛び上がるほど嬉しかったですね」

ルーバーと天窓で半露天風呂的な空間を実現。白壁と上質なタイルに囲まれたバスタブに浸かるという、贅沢な時間が過ごせる。

ルーバーと天窓で半露天風呂的な空間を実現。白壁と上質なタイルに囲まれたバスタブに浸かるという、贅沢な時間が過ごせる。

夫妻の夢を叶えた『ちっちゃな家の空間3原則』

 Kさん夫妻の家には「抜ける、透ける、兼ねる」という、杉浦さん考案の『ちっちゃな家の空間3原則』が存分に発揮されている。
 まず、1階の玄関とLDKの間には仕切りがない。この「抜ける」で空間の広さを最大限引き出した。玄関は直接LDKが見えないように配置され、玄関口の来客にリビングでくつろぐ姿を見られる心配もない。リビングはダイニングキッチンを「兼ねる」が、半透明の戸でキッチンが隠せるので、役割を瞬時に切り変えることができる。また、リビングに通した客に水回りを見せずにも済む。このLDKに面して中庭が置かれ、それがガラスで囲まれ「透ける」ため空間が広く感じられる。そこには採光や換気など「抜ける」機能も兼ねている。
 階下はKさんの書斎と子供部屋、それにハンモックが吊された遊び場、収納スペースとなっている。

半透明の仕切りでキッチンを見せず、かつ奥行きを感じさせる。写真には映っていないが、右側の壁面には大型のスクリーン、左側にはソファとサウンドシステムを設置。

半透明の仕切りでキッチンを見せず、かつ奥行きを感じさせる。写真には映っていないが、右側の壁面には大型のスクリーン、左側にはソファとサウンドシステムを設置。

 「1階と2階だけでは延べ床面積が十分ではありません。しかしこの地域は建物の高さに制限があり、3階建てにはできなかったのです。杉浦さんに相談したところ、1.4mまでの半地下であれば法的にも問題がなく、固定資産税も安くなると」
 この半地下には、階上の中庭や小窓から光が射し込み、息苦しさがない。しかもコンクリートの壁が防音効果を発揮し、ピアノを演奏しても近隣から苦情がくることもないという。収納スペースも広く、サーフボードやスキー板といった大物も置くことができる。
「『都心だから都市の機能を使えばいい。駐車場のスペースを別な用途に使えば、さらに快適な家になる』と言われましたが、ワガママ言って駐車場もつくってもらいました」 2階に上がると、そこには柔らかな光が射し込むバスがある。まさにリゾート感覚のある開放的な空間だ。
 住宅地に半露天風呂的なバスをつくる場合、プライバシーが気になるが、杉浦さんはここでも「透ける」工夫、外から中が見えないルーバーを用いて解決した。

自然を感じる心地良い家

 どの部屋も非常に明るく、常に風が吹き抜けていた。二人の寝室はこの2階にあるが、都心にも関わらず、中庭で伸びた竹に鳥が訪れ、二人は毎朝そのさえずりと陽の光で目を覚ますという。光、風、鳥のさえずり・・・・・・。自然の力がこの家の暮らしを一層心地よいものにしている。これほど完成度の高い家だと、思わず予算が気になってしまうのだが。
 「当初相談した額で収まりました。私たちの理想が、ここまで実現できるとは思っていなかったので、家に入った時にはとても感動しました」
 最後に、お嬢さんのみろくさんに、我が家の感想を聞いた。
 「中庭でバーベキューやオイルフォンデュをして楽しんでいます。中庭では、気分転換に勉強もします。とても気持ちが良い毎日を猫たちと一緒に過ごしています。私はこのお家が大好きです」

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