特集:病気を知り、その治療を考える

[第1回] 肺がん

長い間、私たちはがんを「死に至る病」として恐れてきた。
しかし、医療が絶え間なく進歩し続けた結果、早期に発見できさえすれば、治癒する可能性は9割以上になった。
それでも難治性のがんや、発見が遅れたがんを治すのは難しい。
肺がんは、その難治性のがんのひとつである。
日本における部位別志望者数は第1位(気管、気管支含む)。
2014年には73396人(男性52505人、女性20891人)もの命を奪った。
世界的にも患者数が増加傾向にある肺がんを、克服する手立てはないのだろうか?
その対策と、治療の最前線を紹介する。

監修:加藤治文(新座志木中央総合病院名誉院長、東京医科大学名誉教授、国際医療福祉大学大学院教授) 取材・文/JQR編集部 イラスト/金子真理

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世界で増加する肺がん

肺がんは「最も怖いがん」のひとつである。早期発見が難しく、診断時には、すでに手術ができないほど進行した人も多い。ある調査によると、進行度が早期のステージⅠでは5年後生存率が8割だが、ステージⅡになると4割、ステージⅢでは2割と厳しい数字が出ている。
 日本人男性のがんによる部位別死亡率を見ると、肺がんは1993年に胃がんを抜いてトップになって以来、その地位は不動だ。一方、女性のトップは大腸がんだが、肺がんによる死亡率も増え続けている。肺がん患者数は増加の一途にあり、「2020年には14万人に増える」とさえ予測されている。

世界で増える肺がん発症数は200万人に迫る

 この傾向は世界的にも共通している。肺がんはすべてのがんにおける死因の首位にあり、なかでも深刻なのが中国だ。WHO(世界保健機関)が2014年に公表した「世界がん報告」によると、2012年に世界で肺がんに罹った人は182万人。新規肺がん患者の36%(65万人)を中国人が占めている。この比率は、世界人口に占める中国の人口比率が19%であることから考えてもずば抜けて多い。そして、2025年に肺がんに罹る中国人は、年100万人に迫ると試算されている。
 中国における肺がん事情が悪いのは、喫煙率の高さと大気汚染に原因があるというのがWHOの見解だ。

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肺がんはどの国でも増加傾向にある。喫煙が原因の最たるものだが、環境悪化がそれに拍車を掛けている。 

喫煙と大気汚染が主因のひとつ

 中国の喫煙者数は3億5千万人。世界最大のたばこ消費国であり、成人男性の喫煙率は53%。日常的に副流煙にさらされている国民の割合も70%を超えているという。ちなみに、「小細胞肺がん」と「扁平上皮がん」の発がんには喫煙が関係する。喫煙指数(一日の平均本数×年数)が400以上で要注意、600以上なら大きなリスクになるのだ。
 自動車や工場に由来する大気汚染も深刻である。
「中国の大気汚染は20世紀末から劇的に悪化し、遅れて肺がんも上昇し始めました。喫煙と並び主因のひとつとみられます」(IARCのルーミス副部長:がん原因分析担当談)  
 大気汚染は根が深いが、喫煙は個人の努力で減らすことが可能だ。肺がんに罹るリスクを回避するためには、まず禁煙をすること。さらに受動(間接)喫煙を避けることから始めるべき、と専門家は口を揃える。

肺がんを知る

肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞がなんらかの原因でがん化したものを総称して肺がんという。進行するにつれてまわりの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパの流れにのって拡散し、死に至らしめる厄介な疾患だ。
 ひと口に「肺がん」と言っても、発見しやすさ、治しやすさは、種類によって大きく異なる。まずは「分類」を知ろう。その分類法には2通りある。

肺がんの分類 その1 部位による分類

  肺がんには、太い気管支にできる「中心型肺がん」と、肺の奥の肺胞に近い部位にできる「末梢型肺がん」がある。
 中心型肺がんは、気管支が心臓に隠れるため胸部レントゲンでは見つかりにくく、症状などをきっかけとして、喀痰細胞診で見つかることが多い。一方、末梢型肺がんは肺の奥にできて無症状で進行する。そのため、胸部レントゲンや胸部CTで発見されることが多い。

肺がんの分類 その2 組織型による分類

 検査や手術で採取したがんの細胞や組織を顕微鏡で調べると、形に違いが見られる。この違いで分類する肺がんの組織型には「小細胞性肺がん」と「非小細胞性肺がん」があり、「小細胞性肺がん」には「小細胞がん」と「混合型小細胞がん」が、「非小細胞性肺がん」には、「腺がん」、「扁平上皮がん」、「大細胞がん」の3種類がある。
 また、「扁平上皮がん」、「小細胞がん」は「中心型肺がん」に、「腺がん」、「大細胞がん」は「末梢型肺がん」に分類されることが多い。
 これら肺がんの約60%を腺がんが占め、次に扁平上皮がんが多くみられる。大細胞がんや小細胞がんは比較的発症頻度が低い。
 日本などの先進国では、近年、喫煙人口の減少に伴って中心型肺がんは減少傾向にあり、末梢型肺がんが増えている。

肺がんに罹ったときの主な症状

 肺がんに罹ると、咳や痰など呼吸器に症状が現れる。中心型肺がんは、早期から咳、痰、時には血痰も見られる。風邪に似ているが、鼻水や発熱がないのも特徴なので、咳や痰が長引く時には早めに医療機関を受診したい。
 一方、末梢型肺がんは無症状のまま進行するから怖い。自覚症状が出た時には既に進行してしまい、手術不能であることが多いのはこのためであり、肺がんを「恐ろしいがん」にしている理由だ。

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早期発見の基礎知識

肺がんは、とにかく早期に発見して、的確な治療を受けることが重要だ。とはいうものの、グローバルな基準では、「早期」がどの「病期(病気の進行程度)」を指すかについては複数の定義があり、一本化されていない(たとえばアメリカと日本でも定義は違い、日本の方が「早期」の定義は厳しい)。
 日本における「早期」とは、中心型肺がんの場合はがんが気管支壁の中に留まり、リンパ節転移、遠隔転移のないもの。末梢型では直径2cm以下で、リンパ節転移、遠隔転移のないものを指す。

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定期検診を受けるべき人は?

 40歳以上になったら定期検診を受けるのが理想だ。中でも、上の表にある条件にあてはまる人は、肺がんになるリスクが高いと自覚し、肺がん検診を積極的に受けることを奨めたい。
 通常の肺がん検診は、40歳以上で胸部エックス線検査、50歳以上の喫煙者で、かつ喫煙指数が400以上なら喀痰細胞診を加えるのが定石だ。ただし、胸部エックス線検査は死角が多いのが難点である。骨や動脈、心臓、横隔膜などと重なる部分に隠れる小さながんは見つけにくい。
 その隠れたがんを見つけるのに有効なのが、CT(コンピュータ断層撮影)検査である。多方面から肺にX線を照射し、コンピュータで解析。肺を輪切り状態にした鮮明な画像が得られ、かなり小さながんやコントラストの低い病変でも発見できる。発見率は胸部エックス線検査に比べて10倍程度高く、より早期の肺がんも発見できる。
 問題はコストと被ばくである。CTは胸部エックス線検査に比べて100倍の被ばく量がある。それを従来の10分の1に抑えたのが、低線量CTである。低線量CTは、すでに多くの医療機関で導入されているので、まず確認して検査を受けるのが良いだろう。
 ちなみに、ヘビースモーカーは年に1回CT検査を受けたいが、非喫煙者や禁煙して15年以上になる人は、2〜3年に1回でも十分である。

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治療の基本

治療三本柱を効果的に組み合わせる

 肺がんは先述の通り、ステージⅢの5年後生存率が2割と、深刻ながんである。症状も風邪と似ているため、見落としがちだ。
 ステージⅠで見つかった場合、5つある肺葉のひとつを切り取る「肺葉切除」が標準手術である。
 ステージⅡ以降では手術に加え、「化学療法」と「放射線療法」の3本の柱を組み合わせで挑む。
 より一層進行した場合、また最近増えている肺腺がんには、分子標的薬を用いるのも効果があるという。厳しい副作用が問題になったが、その後投与方法に工夫が施されている。
 肺がんは難しいがんだが、治療方法は着実に進歩している。ベストな方法を選択し、総合力で根治を目指したい。

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光線力学的治療法

がん細胞をレーザーで消滅させる治療法。中心型でごく早期のがんであれば、90%以上の完全治癒が望める。完全治癒に至らなかった場合でも、放射線療法や手術療法と組み合わせることで、完全治癒に至る可能性が大きい。(本誌34P 加藤治文ページ参照)

内視鏡手術

胸に小さな孔をあけて胸腔鏡(胸部用の内視鏡)を挿入し、別の孔から入れた器具を操作して病巣を切除する。胸を大きく開く開胸手術に比べ身体への負担が少なく、術後の回復が早い。最近では、手術療法の中心は開胸手術から腹腔鏡手術に変わりつつある。

手術支援ロボット

わきの下に開けた4か所の小さな孔から手術支援ロボット「ダヴィンチ」のアームを挿入。患者の胸の中を3D画像で見ながら遠隔操作で手術する。人間の手以上に自由自在に動くので繊細な手技が可能。開胸手術より身体に与えるダメージは極端に少なく、回復も早い。

術中ナビゲーションシステム

CT(コンピュータ断層撮影)画像を入力して患部情報を3Dで再現し、的確な切除箇所へ誘導するシステム。内視鏡手術や手術支援ロボットによる手術をサポートする最新テクノロジーだ。患者によって違う血管の詳細が分かるほか、手術計画や手術リハーサルにも役立つ。

陽子線・重粒子線治療

放射線治療の一種。がん病変部位のみに集中的に強いエネルギーを照射できるため、従来の放射線治療と比べ身体への負担が軽く、副作用も少ない。原則として適応は、がん病変がひとつで転移のない場合。陽子は水素の原子核であり、それを加速させたのが重粒子線。

分子標的治療薬

毒性が強かった従来の抗がん剤とは異なるメカニズムで働き、特定の分子(がん細胞)だけをターゲットにして治療を行う。従来の化学療法と比較して正常な細胞組織の損傷が少ないのが大きな特徴。入院せずに外来通院での治療も可能だ。ただし、「がんを治す薬」ではない。

免疫療法(免疫細胞療法)

患者自身の免疫細胞を増やし、体内の免疫力を強化することでがんを治療する方法。また、三大療法との組み合わせにより、相乗効果と副作用の軽減が期待できる。「高度活性化NK細胞療法」「T-LAK療法」「CTL療法」「樹状細胞療法」など、複数の方法がある。

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