魅せられて30年!?

日本人の美意識の高さに感動した
大名庭園で過ごした秋の一日

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東母国ハンガリーから旅立ち、
多くの国を巡った数学者のピーター・フランクル氏。
最初で最後との思いで来日しながらも、日本への定住を決めた。
そのひとつのきっかけが、初めて訪れた大名庭園の美しさだった。

聞き手・文/JQR編集部 撮影/内藤サトル

六義園の盛夏を楽しむピーター・フランク氏。緑が素晴らしいと絶賛。

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東京大学に招かれ、30年前に初めて日本に来ました。最初で最後のつもりでしたから各地を観光しようと、2週間使える国鉄のパスを利用して福岡を目指しました。途中、岡山駅で下車し、路面電車に乗り岡山後楽園に向かったのです。秋が深まる季節でした。門を入ったところには立派な菊の鉢が並び、もみじが綺麗な紅色に染まっていました。初めて訪れた大名庭園は見所いずれも素晴らしく、僕はしきりに感動しました。
 1986年の秋に両親を連れて来日して、4週間かけて大好きな日本を案内しました。金沢の兼六園、岡山後楽園、福岡の大濠公園を巡り、紅に染まった椛(もみじ)を見て、両親もとても感動しました。「木ヘン」に「花」と書く国字は日本人の造語力の証ですね。
 私はその後、広島の縮景園や高松の栗林公園、熊本の水前寺成趣園、鹿児島の仙巌園(磯庭園)などに足を延ばしています。
 訪れた大名庭園は、いずれも美しい庭園でした。日本人の仕事はとても丁寧で、最後のネジ一本まできっちり締める。その細かさは庭園の管理にも現れています。庭園ですから当然ですが、木々の葉が伸びたり落ちたり。時には台風で枝が折れたりもします。それでも大名庭園はいつでも整っている。梅雨時期に美しい菖蒲も、日本では人がしっかり手入れをしているからとても綺麗に花を咲かせます。日々の努力を怠らないので、庭も高いレベルで美しさを保っているのです。僕が日本を好きになった理由も、そこにあります。

「小石川後楽園や六義園は日本の美意識を伝える、四季折々が楽しめる庭園」と、ガイドブックは書いて欲しいね。

「小石川後楽園や六義園は日本の美意識を伝える、四季折々が楽しめる庭園」と、ガイドブックは書いて欲しいね。

紅葉に関心がない外国人は日本の紅葉を知らない

 外国人は紅葉に関心がないとよく言われるようですが、それは日本の紅葉を見たことがないからでしょう。僕も来日したばかりの9月の始め、まだ残暑が厳しく、暑くてたまらない時期だったのですが、教授に「10月半ばから紅葉が始まるよ」とか「銀杏の葉っぱもどんどん色が変わる」と言われて、「ああそうですか」と(笑)。何しろ、ハンガリーでは黄色になったらすぐ落ちるという葉をうんざりするほど見てきましたから、その時はまったく関心がなかった。でも、先ほど話した岡山後楽園に行き、そこのもみじは燃えるように赤色に染まって、しかもひとつひとつの葉の細部までが繊細で美しい。周りの緑とのコントラストをなし、庭に綺麗に映え、凛とした雰囲気を醸している。外国からの旅行客も、鮮やかで整った日本の紅葉を見れば、必ず感動し、興味を持つと思います。ただひとつ問題があって、ヨーロッパの人たちのバカンスは夏ですから、秋のシーズンに長い休暇を取って日本に来るのは難しい。それがとても残念ですね。

風景を眺めながら安らぎ思索する

 日本で暮らし始めた当初、東京にも大名庭園があることを知りませんでした。最初に知ったのは浜離宮です。庭園を巡った後に、船で隅田川を遊覧しながら浅草まで行けるのも魅力で、ドイツの数学者や外国のテレビクルーなどを案内しました。その次は小石川後楽園でした。ハンガリーの友人が日本にやって来て、ある時ひとりで小石川後楽園に出かけたと言います。彼はとても気に入って「ピーターも絶対に知っていると思ったよ」と。それで彼に誘われて行きました。すると、そこはまさに都会の中のオアシス。背景のビルをうまく避けると、目の前に緑の景色だけが広がり、安らぎを得ることができました。僕は和歌や俳句はうまく作れませんが、御茶屋で風景を眺めながら、自分の人生やこれから何をやりたいのかなどを考える。若い人たちはデートするのに素晴らしい場所ですね。私は大名庭園に、いつも日本独特の美観を感じています。

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 もちろん海外にも庭園はあります。ですが、ちょっと意味合いが違います。フランスのベルサイユ宮殿やロワールの古城など、しっかり管理されている庭もありますが、その庭の樹木は城の価値を上げるように、すべて同じ形に刈り込まれています。樹木は庭園のためのものではなく、お城を美しく見せるために使われているのです。
 ヨーロッパで公園が多いのはイギリスです。フランス、スペイン、イタリアは夏の日照が強くて芝生は枯れてしまいます。一方、イギリスは雨が多く緑が保てます。ところが北に位置するため、日本ほど葉の色や樹木の種類がありません。日本は温暖で雨が多いので、緑の種類がとても多く、色が映えて美しいですね。桜が散ってからの初夏からお盆になる間の緑は本当に見応えがあります。日本では長い期間花が咲くため、花を見ないとつまらないと思うかも知れません。でもそれは違います。ここ六義園は7月の終わりですが、緑のグラデーションがとても鮮やかで見事でしょう。
 大名庭園は日本の誇る大切な文化。来日した観光客の皆さんにぜひ足を運んで欲しい、とっておきの場所ですね。

PROFILE

ピーター・フランクル(日本名/富蘭平太)
数学者、大道芸人。ハンガリー学士院メンバー。
日本ジャグリング協会名誉顧問。

1953年ハンガリー生まれ。1979年フランスに亡命。1982年に初来日。1988年から日本に定住。12ヵ国語を操り、100ヵ国以上を訪れている。人生を楽しくするコツを伝えたいと講演活動に力を入れている。最新の著書は『数に強くなろう』(岩波ジュニア新書)

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