売り手と買い手が互いを信用!!

収穫した野菜を無人の販売所に置き
代金を回収する「置き野菜」ビジネス

取材・文/畑田麻理子 写真/内藤サトル

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(右)住宅街の中に点在する畑の作付面積は狭いながら、農家は多品種を育てている。(左)誰もいない無人販売所。日本人にとっては見慣れた風景だが、考えると不思議な光景だ。

「置き野菜」は朝に採れた野菜が並ぶので新鮮。しかも作り手の顔が見えるから安心です。取材中に出会ったおば様は、「明日はこれ食べたいから置いておいて、なんて予約することもあるのよ」って。予約ができるなんて、私、知りませんでした。置いておくだけですよね。先に来た人が持って行ってしまわないのですか? なんて、ニコニコ話してくれるおば様には突っ込めませんでした・・・・・・。

地元の人にとっては、新鮮な野菜が安く買える嬉しい販売所。野菜が並ぶとすぐ売れ始める。

 さて、今回取材に回ったのは、東京・世田谷区の農家です。世田谷と言えば高級住宅街のイメージですが、まだまだ畑や林が残っているんですね。とは言え、区内にある農家の8割以上が50a未満の小規模経営だそうです。そのため多品目を少量生産し、農家個人の直売所や、JAの共同直売所などで販売する「地産地消」が主流となっていると、東京中央農業協同組合砧地区生活センターの金子理史さんが教えてくれました。

(上)代金は自分で計算して小さな箱に投入。おつりは出ないので、小銭を用意して行こう。(下)並ぶのは、いずれも朝採れた新鮮な野菜。色も良く、売り切れた時点で終了。追加はない。

 こうした農家の皆さんの生活を支える「置き野菜」は、つまり無人の販売所です。置いた野菜を管理し売る人がいないので、“買った人が代金を払ってくれるはず”という、見知らぬ人への信頼感がなくては始まりません。実際の代金回収率を聞くと80〜90%だそうです。やはり100%という訳にはいかないようですね。盗難対策として最近増えているのが、コインロッカー方式。代金は回収できますが、野菜を手にとって見ることができないのが難点です。

無人販売を実践する農家の方に話をお聞きしました

地元の人たちが買ってくれるのは信頼されていることの証明

石井良彦さん

農薬の使用は最低限に抑え、有機肥料で育てることを追求している石井良彦さん

江戸時代から代々続く農家の石井良彦さん。販売所へ伺ったのは、採れたばかりの野菜を棚に並べ始めた朝9時頃。それに気づいた通りすがりの人たちが群がり、置くそばから売れていきます。作る野菜は年間40種類ほどで、毎日5〜6種の野菜を並べるとのこと。

「売れ残ると少し肥料を増やせば良かったかな、と考えたり。無人販売は野菜の出来具合がわかるバロメーターですね」

無人販売所に並べる野菜も農協に卸す野菜も出来映えは変わらない。

 馴染みのお客さんが多いので、代金の回収率もいいのではと聞くと、だいたい8割程度だとか。2割の人がお金を払わない、というのではありません。車で通りがかった人がごっそり持って行ってしまうんですって。それは残念な話でした。そうしたことがあるにせよ、無人の販売所でなぜ誰もがお金を払うのでしょうか? 「日本人のまじめな気質ももちろんあるのでしょうが、私が毎日丹精込めて育てている姿を見てくれているからではないかと思いますね」

 と、石井さんは答えてくれました。この辺りの農地もだんだん少なくなってきたと振り返る石井さん。美味しい野菜を、いつまでも並べて欲しいと思いました。

収穫の直前まで太陽を浴びた美味しい野菜を食べて欲しい

斉藤道紀さん

作った野菜の7割を出荷し、残りを無人販売所で販売している斉藤道紀さん。3割も置くなんてリスクが高そうです。当初は道路に面した場所に置いていましたが、やはり車での盗難が多く、そこで少し奥まった畑に近い場所に移すと、回収率は9割になったそうです。

「販売所に野菜を並べたら、並べっぱなし」と斉藤道紀さん。

 無人の販売所で、なぜお金を払うのでしょうか? 石井さんと同じ質問をしてみました。すると、
『細かいお金の持ち合わせがないので、次に来た時に払います』というメモが残されていてね。次の日料金箱を開けたら、その代金がちゃんと入っていたこともあった」
 と、エピソードを話してくれました。野菜を育てることとは違った気苦労もある無人販売。続ける理由は、「次に繋がるから」とのこと。

何の表示もない料金箱に、誰もが代金を入れる。

「うちの野菜が美味しいと分かってくれれば、また買ってもらえる。なので、自信を持って育てている。『この前買った枝豆は味が濃くて美味しかった』って、手紙があったこともあった。丹精込めて育てた野菜を食べてもらえることが何より嬉しいですね」
 そう聞いて、私は農家の心意気を感じたのでした。

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