JQR FASHION – おめかし – 粋

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Omekashi 2 1

 

せめぎあう内面と表層、粋はそこから生じる。

文●蘆田裕史

 

「いき」の構造は「媚態」と「意気地」と「諦め」の三契機を示している。(九鬼周造『いきの構造』)

 小股の切れ上がった女。粋な女性のことを表すとされる言葉だが、小股というのが体のどこをさすのかははっきりとはわかっていない。足の親指と人差し指のあいだ、足首、あるいはうなじなど、小股という言葉が指す部位については諸説あるようだ。だが、いずれにせよ、女性の身体のなかでも日常でまじまじと凝視されることのあまりない部分に「粋」な要素を見ていたことは間違いないだろう。このフェティシズムの対象となりそうな細部への眼差しは、そこに性的なニュアンスが込められてもいることをも表している。「性的」と言ってしまうとみもふたもないが、つまりは「色気」の問題である。小股が指し示す場所が日常の所作においてちらりと見えるようなものであることを考えると、露骨なセックス・アピールではなく普段は隠れた色気がふとした瞬間にほのめかされるようなものでなければならないだろう。

 隠された色気。そう考えると、たとえばヨウジ・ヤマモトの服に粋を見ることも出来るだろう。黒という無性的な色が多用され、身体のラインをこれ見よがしに出すことのないフォルムをもつ服のなかに隠された艶っぽさは、いわゆる西洋的なセクシーとは対極にある。山本耀司はしばしば、自分の作る服が似合う女性が少なくなったと述べているが、それも無理のないことかもしれない。わかりやすいものが良いとされる現代においては、粋なあり方は似つかわしくないのだから。たとえば価格の安さ、素材の肌触りの良さ─天然素材であれ化学繊維であれ─、あるいはブランドのロゴがプリントされた、記号としての作用を持つ服など、一見(一触)してわかるものが現代では求められていると言えるだろう。また色気に関して言えば、肌を露出するという直接的な方法に訴えることが多く、やはり粋とは程遠い。こうしたわかりやすさを否定するわけではないが、わかりやすいものだけしか存在しないことは問題だと思われる。

 「粋」がはらんでいる問題は色気だけではもちろんない。「粋な計らい」という表現を考えてみてもわかるように、相手に直接伝わってしまうような表現よりむしろ、見えないところに隠された、相手のことを推し量る気遣いなども粋である。とりわけデザインという分野においては、こうした気遣いを織り込みやすいのではないだろうか。意図を隠しつつ、使用者のことを慮ったデザインは、一見しただけではわからないし、使って(着て)みてもすぐには気づかないかもしれない。だが、時間をかけてゆっくりと理解していくことは、モノに対しても必要なことである。

 つまり、粋とは一見しただけではわかりにくい意図を持ったものであり、こう言ってよければ、表層の裏切り、そう定義することもできるだろう。外見とは異なる要素を持っていたり、相反する要素を組み合わせていたり。しかしながら、だからといって「内面が重要だ」という有り体の結論に至ってはいけない。問題なのは表層と内面との差異や齟齬であり、表層も同じく重要なのだから。

 

蘆田裕史/ Hiroshi Ashida 1978年生。 京都大学大学院博士課程研究指導認定退学。京都服飾文化研究財団アシスタント・キュレーター。

 

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