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COPは6〜12。地中熱ヒートポンプの可能性

地中の熱を利用して
クリーンなエネルギーを生み出す

構成・文/JQR編集部 写真/高井朝埜 協力/山梨大学

二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーを確保することは人類の喫緊の課題である。太陽光や風力などの自然エネルギー利用が増えているが、自然エネルギーの弱点は、安定供給が難しいこと。そこで、山梨大学の武田哲明教授(機械工学)が注目したのが、安定して利用できる地中熱エネルギーである。

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(写真上)地中熱のデータを説明する武田教授。(写真下)研究室に接して設置された地中熱ヒートポンプ。実際に研究室の空調に利用。

私たちの生活に不可欠なエネルギー。エネルギーによって機械は動き、私たちは日々多大な恩恵を受けている。しかし、その恩恵と引き替えに地球温暖化が進み、今や地球の環境は重大な局面を迎えつつあるのも確かである。
 そうした中、太陽光や風力にはない、安定した供給が可能な地中熱を利用する試みが進んでいる。「地中熱ヒートポンプ」は、私たちの足元、土の中から1の電力で10のエネルギーを汲み上げることも可能とする、とても効率のいい冷暖房の技術である。

解説1
「地中熱」は「地熱」と混同しやすいが別物だ。「地熱」は地球内部に保有されている熱の総称で、「地中熱」は地表から100m程度までの浅い地盤にある低温(15~20℃程度)で、年間を通じて変化の少ない熱源を言う。

足元の地中にある一年中安定した熱

 足元を深く掘り下げた地中の温度を知っている人は、ほとんどいないだろう。例えば、山梨大学甲府キャンパスの地中温度は、年間を通じて18.3度ほど。地中の熱は、地表から10mの深さまでは太陽熱の影響を受けるが、それよりも深い場所では昼夜、季節を通じてほぼ一定の温度を保っている。一方、同じ甲府市の気温はマイナス4度〜35度と、季節を通じて40度も変動する。
「この温度差を利用した非常に効率のいいシステムが地中熱ヒートポンプです」
 武田哲明教授は、特にエアコンに利用する空気熱の代わりに、地中熱を利用するヒートポンプの開発・研究を進めている。
 ところで、このヒートポンプには間接方式(従来型)と直接膨張方式のふたつがあり、従来型の地中熱ヒートポンプはすでに採用されている技術だ。スカイツリーや甲府市役所の庁舎などで稼働しており、いずれも大きな施設で公共のものが多い。
 環境省の調査によると、海外では欧米諸国を中心に普及が進み、アメリカではすでに、12kWtの家庭用100万台分(12GWt)が稼働しているという。日本ではすべてを合わせても年間で62MWtと、圧倒的に少ないのが実情だ。

甲府市の平均気温

甲府市の平均気温

地中熱ヒートポンプの二つの方式

地中熱ヒートポンプの二つの方式

エアコン 間接方式 直膨方式
カタログ値はCOP4〜5
平均は3程度
COP4〜6 COP6〜12
解説2
COP(Coefficient Of Performance)とはエアコンなどのエネルギー消費効率に使われる係数。COP=能力(kW)/消費電力(kW)。消費電力1Kwあたりの冷却・加熱能力を表す。

エアコンは外気との熱交換が必要

 地中熱ヒートポンプの仕組みの基本は、どこにでもある家庭用エアコンと同じと考えればいい。エアコンによる暖房は、まず室外機が外気の熱を取り込み、その熱で冷媒が蒸発して気体になる。その気体(冷媒)をコンプレッサーが圧縮し室内にある熱交換器に送る。そこで気体が凝縮して液体になり、その時に放出する熱を利用するというものだ。冷房の時は回路を切り替え、冷媒を逆に巡回させる。
 つまりエアコンは、冷房時には外の空気に熱を捨て、暖房時は反対に熱を取り込むのである。従って、外気が氷点下になる北海道の冬では、エアコンは動かない。外から熱を取り込めないからだ。
「熱は水と同じで、高いところから低いところにしか流れません。冷房では気温が35度のところに、35度以下の熱は捨てられないのです」
 となると、35度の外気中に熱を捨てるために、エアコンは冷媒をそれ以上の温度にする必要がある。コンプレッサーで冷媒を圧縮することで温度が上がるのを利用するのだ。冷房時に室外機が熱い風を吹き出しているのは、この仕組みによる。都会では、ヒートアイランド現象の原因のひとつとなってしまう。
 地中熱ヒートポンプは、エアコン同様の仕組みながら、熱の取り込みと放出を地中で行う。もちろん、熱い風を吹き出すことはない。

エアコンにおける熱交換の仕組み

エアコンにおける熱交換の仕組み

地中熱の特徴と地中熱ヒートポンプの効果
  • 地中熱温度は年間を通してほぼ一定
  • 全国で利用可能。天候や地域に左右されない
  • 省エネルギーシステムの採用で、資源エネルギー消費量の削減とCO₂排出量の削減に貢献
  • 冷房運転時の廃熱を大気に放出せず、ヒートアイランド対策に有効
  • 高性能システムによりランニングコストを削減

地中熱ヒートポンプの仕組み

 先述の通り、地中熱ヒートポンプにはふたつの技術がある。間接方式は、冷媒の熱を熱交換器で不凍液と交換し、その不凍液をパイプで地中に循環させ熱を地中と交換するというものだ。以前からある技術で、熱交換器を介在させるため間接方式と呼ばれている。熱交換器の効率に限界があるのが難点だ。
 もうひとつが、武田教授が開発を進める直接膨張方式である。
「これはA-401Aという代替フロンを地中に直接循環させるものです。冷媒と地中の熱交換を直接行うため熱交換器が不要。非常にシンプルで効率の良い方法です」
 地中熱は枯渇することもなく、CO₂を排出しないクリーンなエネルギーだ。排出熱も地中に放出するので街を暖めることもない。北海道では冬にエアコンが使えないが、地中熱ヒートポンプなら気温が氷点下でも土の中は暖かいので、その熱を取り出し暖房に使える訳だ。良いことずくめのエネルギー利用だが、普及には費用対効果が求められるものである。

直接膨張方式地中熱ヒートポンプの概要

二次媒体との温度差が必要ないため凝縮圧縮を低く、蒸発圧力を高くすることができるのが特徴。ポンプ、熱交換器、膨張タンクなどが不要となり、システム全体の部品点数が少くなった。また、それらで消費する電力も不要となり、間接方式より高効率の運転が実現する。さらにブライン配管工事を排除したことで設備工事が単純になり、コストダウンが期待できる。

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導入費用と熱効率の性能

その点について、武田教授は、
「そうです。問題はコストですね」
と、頷いた。
 エアコンの初期導入コストを1とすると、地中熱ヒートポンプではおよそ2.7倍になると武田教授は言う。仕組み自体は簡便なのだが、パイプを埋める掘削費用がかかるのだ。
 導入すれば、もちろん冷暖房のランニングコストは安くなる。概算だが、一般のエアコンに比べて、従来型で7〜8割、直膨方式では3割程度にコストを抑えられる。
「実は、直膨方式は30年以上前に一度試されています。その時は、冷媒や機器類の性能が足りず、うまくいかなかったんですね。地中50mから冷媒が循環しなかったようです。なので、直膨方式は絶対無理というイメージが強くて、提案しても採用してもらえなかったのです」
 直膨方式にチャレンジする武田教授への逆風が凪いだのは、2年ほど前に行った実験の結果だった。その時の外気温は38度。しかし、熱を地中に捨てるので冷房能力も、消費電力が涼しいときと変わらなかったのだ。COPが一定、つまり直接膨張方式でも、地中熱ヒートポンプは外気に影響を受けないシステムだと証明したのである。
「技術的な問題はほぼクリアした」と胸を張る武田教授。今後は、地中に捨てた熱の影響などを調べるなど、実用化に向けて必要なデータを収集。同時に製品の認証や保守点検などの構築に取り組む予定という。
 誰もの足の下に、枯渇しないクリーンなエネルギーがあり、それを取り出し、生活に利用できるという地中熱ヒートポンプ。夢のような技術の実現に向けて、武田教授は効率を最大限上げる研究を続けている。

イニシャルコスト・ランニングコストの比較
空気熱ヒートポンプ
(エアコン)
地中熱ヒートポンプ
(従来型)(注)
地中熱ヒートポンプ
(直膨方式)
イニシャルコスト
比率
100(基準) 270 200
イニシャルコストはエアコンの約2倍
ランニングコスト
比率
100(基準) 75 30〜40
ランニングコストはエアコンの約1/3倍

(注)出典:ヒートポンプとその応用(2011.3 No.81)

株式会社萩原ボーリング 代表取締役社長 萩原利樹さん

株式会社萩原ボーリング
代表取締役社長
萩原利樹さん

地中熱は有望なエネルギー

3.11を契機に一番安定しているエネルギーは何だろうと考え、至ったのが地中熱です。そこから本格的に取り組み始めました。但し、省エネは進めば進むほどイニシャルがネックになります。山梨大学と協力して効率をよくするシステムの構築を進めています。私は、最後に残る省エネルギーシステムは、とても安定している地中熱ヒートポンプだと思っています。産学官金が連携して取り組む文部科学省「地域イノベーション戦略支援プログラム」に参加し、開発を進めています。

山梨大学大学院総合研究部 武田研究室
直膨式地中熱ヒートポンプ、温泉熱を利用したバイナリー発電と熱電発電の研究と、その統合システムの開発を行っている。
山梨県甲府市武田4−3−11
TEL:055-220-8415

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