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いずれは高速道路からの給電も可能に!?

車の未来を大きく変える
ワイヤレス インホイールモータ

取材・文・撮影/JQR編集部

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ワイヤレス インホイールモータを後輪に取りつけた実験車

藤本博志氏
東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授。自動車技術会 電気動力技術部門委員会 委員長。制御工学、モーションコントロール、電気自動車の運動制御、モータとインバータの高性能制御,ワイヤレス給電に関する研究などを行う。

 電気自動車の技術のひとつに、駆動モータを各車輪のホイールに取り付けるインホイールモータ方式がある。デファレンシャルギアやドライブシャフトが不要になるなど様々な利点があるが、難点はバッテリーから駆動モータに電力を供給するケーブルだ。脆弱なケーブルは断線しやすく、走行中に断線すれば、車は制御不能になる。この問題を解消する「ワイヤレス インホイールモータ」を、東京大学大学院新領域創成科学研究科を中心としたグループが開発。8月4日に行われた走行テストを取材した。

千葉県柏市。東京大学大学院新領域創成科学研究科のキャンパス内にある試験場に入ると、後輪に「ワイヤレス インホイールモータ」を実装したEV車が置かれていた。運転手が乗り込みアクセルを踏むと、後輪の駆動部がむき出しになった無骨な車が滑らかに走り出した。大学構内のため時速を30km/hに抑えているが、EVゆえ音もかすか。見慣れた車の走行である。

 ところが、停車した車の駆動部を見ると、車軸と車体の間に拳程度の隙間がある。車軸を支えるジョイントやサスペンションのほかには車体と繋がる配線などが何も見当たらない。その“間”がとても不自然だ。何も繋がっていないのにモータが駆動する? プロジェクトリーダーの藤本博志准教授は、
「電圧を上げれば75km/hまで出すことができます」
 と言う。実は自動車を動かすほどの電力をワイヤレスで飛ばしているのだ。

試験場でのワイヤレス インホイールモータ搭載車の走行試験の様子。通常の自動車よりも音は静かで走りもなめらか。

試験場でのワイヤレス インホイールモータ搭載車の走行試験の様子。通常の自動車よりも音は静かで走りもなめらか。

インホイールモータのメリット

開発したワイヤレスインホイールモータのスペック
最大出力 6.6kW(後輪2輪)
最高速度 40km/h※
最大加速度 0.14G
機能 回生動作可能

※モータの電圧設定により 75 km/h まで実現可能
 さらに4輪装備時は 105 km/h まで可能

 電気自動車では、車輪の中にモータを置くインホイールモータの研究開発が以前から行われている。駆動力を直接車輪へ伝えるため、エネルギー効率が高いというメリットがあるからだ。4輪をそれぞれの状況に合わせて制御すれば、消費電力が抑えられ航続距離も伸びる。しかも、横滑りなどへの対処も可能になる。安全面とエネルギーの両面にコミットする、未来の技術と言っても過言ではない。

 しかし、長らくこのインホイールモータの実用化を阻んできたのが、モータとバッテリーを繋ぐ電力供給ケーブルや信号導線の断線問題であった。

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 当然だが、クルマには第一に安全が求められる。従って、部品に課せられる耐久性は10年以上と定まっている。その点からすると、ケーブルはいかにも脆弱だ。走行中の車輪は路面の起伏を拾って変則的に動き、転がる石を跳ねる。雪で凍り、日射しに灼けたアスファルトの上でもお構いなしに転がらなければならない。そんな過酷な状況の中でも絶対に切れないと保証できるケーブルを開発するのは難しい。

従来のインホイールモータでは、バッテリーとモータをケーブルでつないでいたが、車輪の激しい動きでケーブルが断線する可能性があり、普通車では実用化されていなかった。ワイヤレスインホイールモータでは、ケーブルをなくし送電コイルと受電コイルによって無線で電力伝送することで、この問題を解消。

 このテーマを思い浮かべた時、藤本氏はふと、「それならケーブルをなくせばいいのではないか」と考えた。インターネットのWi-Fiのように、電力がバッテリーとインホイールモータの間を飛べば、ケーブルは不要になる。

 早速、ワイヤレス電力伝送の研究を行っている居村岳広助教に声をかけた。東洋電機製造、日本精工の協力を得てワイヤレスインホイールモータの研究開発を始めたのは、2012年秋のことである。

(左)タイヤから出た銀色の部分に従来の自動車の駆動装置がコンパクトに集約されている。(右)送電コイルと受電コイルの間は約10センチの距離がある。このコイルのまわりに磁界を生成しているが、まわりの金属部分からの悪影響がないように設計している。

(左)タイヤから出た銀色の部分に従来の自動車の駆動装置がコンパクトに集約されている。(右)送電コイルと受電コイルの間は約10センチの距離がある。このコイルのまわりに磁界を生成しているが、まわりの金属部分からの悪影響がないように設計している。

磁界共振結合とSiCコンバータ

 研究につきものの紆余曲折を経て、プロトタイプが完成し、2015年5月18日に行った走行テストと記者会見には、多くのマスコミが駆け付けた。

 披露された技術の特筆すべきは、無線で電力を伝送しながら車を走らせた点である。停止しているEVのバッテリーへの無線送電はすでにある技術。だが、
「走行中の車体から車輪へ電力を送り、その電力でモータを動かすとなると、難易度が一気に上がります」(藤本氏)

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高速道路の中に埋め込んだ給電コイルから、ワイヤレスインホイールモータに直接給電する研究を開始している

 それを可能にしたのが、磁界共振結合という電力送電方法とSiCコンバータ制御技術である。
 まず、走行中の車輪は前述の通り変則的に動くため、送電コイルと受電コイルの位置が常にずれる。これを解決するために磁界共振結合という、居村氏が研究している技術を用いた。送電側と受電側の双方に共振コンデンサを設けて共振させるもので、それによりコイル間が10cm以上離れていても、電力を90%以上の高効率で送ることが可能になった。

 また、モータは、供給された電力が使用する電力より少しでも大きいと、余分な電力がコンデンサに貯まり、コンデンサの電圧が上がってしまう。逆に、供給電力が使う電力より小さいと、コンデンサの電圧が下がって車が動かなくなる。つまり、過不足のないちょうどいい電力を供給し、一定の電圧を保つ必要があるわけだ。それらを、SiCコンバータという回路で受電側を制御する技術を用いて解決したのである。
 さらに、電気自動車は、減速時にモータが発電する回生ブレーキの仕組みを持つ。ここで生じた電気は車体側に送らなければならない。そのため、送電側と受電側の対称回路を使って、双方向による電力伝送をも実現した。

ワイヤレスで広がるEVの走行

開発の中心メンバー。「東京大学だけでなく、東洋電機製造、日本精工といったメーカーとの共同開発グループだからこそ実際の車での走行が可能になりました」(藤本氏)

「このワイヤレスインホイールモータの技術を改良すれば、走行中に路面に埋め込んだ給電コイルから電気を充電しながら走ることが可能になります。実現すれば、家から高速の入り口までの電力さえ充電しておけば、あとは延々と走り続けられるようになりますよ」
 藤本氏が言うこうした路面からの無線充電への取り組みは、今後ますます注目されるだろう。イギリス政府も年内に実証実験を行うと発表している。また、日本でもすでに基礎実験が行われているし、韓国では一部の区間で実証実験用にバスが走りはじめている。
 送受電コイルの位置関係が激しく変化する場合でも、うまく伝送電力を制御したこの技術があれば、EVは次のステップに向かえるはずだ。今後の進化に目が離せない技術である。

東京大学大学院 新領域創成科学研究科
堀・藤本研究室

東京大学 柏キャンパス
千葉県柏市柏の葉5-1-5 04-7136-3873(研究室)
http://hflab.k.u-tokyo.ac.jp/

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