水源の二元化は有効な防災対策 – 地下水を安全な水に変える技術

Decrease Font Size Increase Font Size Text Size Print This Page

 

Takumi 1
膜ろ過システムの根幹部、「膜」の断面。1本1本はまるでストロー。膜繊維の表面には0.01μの穴が開いており、水がその穴を通過する際にろ過を行う。

 

蛇口をひねれば水が出るという現象は、もはや約束されたことではない。それは我々日本人が3月11日に思い知らされた現実である。何らかの理由で上水道が利用できなくなった場合を考慮し、水源を二元化するシステムの普及に努めてきた企業がある。地下水膜ろ過システムのパイオニア、株式会社ウェルシィ(WELLTHY CORPORATION)だ。

地下水膜ろ過システムとは、高度な膜ろ過技術によって地下水を飲用可能な水に変え、安定して供給するシステム。水道法に定められた50項目の水質基準を保証し、年中無休の監視と月1回のメンテナンス体制をしいている。東日本大震災直後に広範囲で発生した断水という状況下でもウェルシィのシステムは有効に機能し、本システムを導入していた病院や食品会社では、従来通り安全な水を使い続けることができた。また、地域住民や社員の家族にまで水を供給できたという。

一般的に、電気・水道・ガス・電話などのライフラインが寸断された場合、電気や電話は比較的早く復旧するが、もっとも遅いとされるのが上下水道だ。飲用以外に手洗いや入浴など公衆衛生の観点からも、独自の水源をもつことは、生活維持のためにもっと重要視されるべきだろう。

福田章一社長は「今回の大震災を受け、私どものやってきたことは間違っていなかった、と確信しています」と胸を張る。それもそのはず、これまで「地下水は震災に強い」という説はあったものの、それを証明できるデータはほとんどなかったからだ。1995年に起きた阪神淡路大震災後まもなく始めた同社のシステムによって、初めて実証されたといえよう。

 

Takumi 2
膜ろ過システム設置例(医療法人社団総生会 麻生総合病院)

 

導入メリットはたくさん

このほか、本システム導入にはメリットが多い。そのひとつはコストの削減である。公共水道のみを使用している場合に比べ、設備費やメンテナンス料を入れても、年間で大幅なコストダウンを図ることができる。

また、自治体や自治会と連携し、災害時に近隣住民に飲料水を提供することが可能。安全な水の常時確保は地域貢献、さらには企業のイメージアップにもつながる。

福田社長が水事業に踏み切ったのは15年前。それまでは、節電器の製造販売を行っており、利益を十分に上げていたという。ある日、取り付け工事が終わって客と契約を交わしていると、「これで電気は節約できるが、ガスや水道はなんとかならないものか」と相談を受けた。数日のうちに、複数の取引先で同じ話をされたという。そして、念のため図書館で文献を当たった。すると、上水道に限っては官が独占でやっており、競争相手がいないことがわかった。

「自分がやっていた電気の分野は、抜きつ抜かれつの世界。日進月歩で技術が磨かれている。しかし本によると、水は競争相手がいないせいか30〜50年も技術が進歩していないと書かれていたんです。」(同)

 

地下水膜ろ過システムのシステムフロー
Takumi 3
取水源は深井戸。砂や活性炭での前ろ過後、UF膜等で高度処理を行う。細菌や原虫も膜で完全に除去する。さらに、安全装置により24時間365日水質を監視している。

 

最新導入事例の割合
Takumi 4
導入している企業の多くは、病院や百貨店、ホテルなど、日々水を大量に利用し、かつ非常時にも対応しなければならない施設。患者や客の命を守るために安全な給水ラインの確保は必須。

 

水道料金削減の仕組み
Takumi 5
9年間のリース契約で3000万円の設備を導入した場合、年間288万円のコストダウンに成功した(公共水道単価400円/t、年間使用量30000t)。*設備価格は商談条件ごとに異なる。

 

電気から水事業への参入

やがてビジネスとして成立すると見込み、社をあげて地下水浄化の研究開発に取り組む決意をする。しかし、地下水を飲めるように浄化するのは至難の業だったという。

日本人が古くから利用してきた井戸水は、あくまでも個人の責任で使用するもの。他人に提供していい水は、当時の水道法で定められた48もの検査項目をクリアしなければならなかった。井戸水を実際に検査すると、とてもそのまま提供できるものではないと判明した。

また、川の水と違い、地下水には想像以上の重金属が多く含まれており、処理が難しかった。さらに、細菌、重金属などを取り除くことはできても、その水を安定的に長期間供給するためには、幾重にも工夫を重ねなければならなかった。

「研究を始めるにあたって、水処理の技術者を他社から引き抜いてチームを作ったんですが、研究は行き詰まる、節電器チームからは反感を買う『止めてほしい』だの『辞めさせてほしい』だの、それはつらい日々でした」と福田社長。ついにはチームリーダーが退社することになり、最後は社長自らがリーダーとなって研究開発を続けたという。

紆余曲折の末に完成した複雑なシステムは、結局、開発当初に社長自らが設計した通りのものとなった。

「実に難しかった。今でも地下水処理は難しいんです。だからこそ、それを乗り越えた弊社が、今、生き残っているのでしょう」(同)

応用技術でさらなる飛躍

地下水を飲料水に変えるほか、ウェルシィには、用途に応じた水質に水を処理する技術がある。たとえば、恵みの雨をタンクに貯蔵し、水質コントロールをすることで、飲料水のほか、散水や洗車など雑用水を作り出すことができる。この場合、飲料水レベルの処理を行う必要はない。また、大量の水を排水として廃棄してしまう工場には、排水リサイクルを導入することで上下水道のコスト削減とともに水の有効活用もできる。

福田社長はこう断言する。「まもなく、飲料水に安全性を求めるだけでなく、おいしさや好みを求める時代が来るでしょう。『ウチにはお年寄りがいるから柔らかい水がいい』とか、『今日はミネラル分の多い水を飲みたい気分』など、希望の水を家庭で自由に作る時代に備えています」

前人未到の世界に飛び込み切磋琢磨した技術は、変幻自在だ。

 

その他の事業展開例

 

●ウェルサーマルヒートポンプ
安定した地中の温度に着目し、地中熱とヒートポンプを組み合わせた「ウェルサーマルヒートポンプ」は通常のヒートポンプよりもさらに効率のよいエネルギー交換ができる。一般住宅の冷暖房はもとより、スポーツジムや農業施設など広範囲で利用できる(*図は農業利用の場合)。
Takumi 6
Takumi 7
ボイラー使用の際、地中熱ヒートポンプを利用することで重油使用量の大幅削減が可能になり、省エネとコストダウンを両立できる。

 

●セオエール
4段階の処理装置で高い浄水効果を実現したコンパクトな浄水装置『セオエール』。河川や池などの水を非常用飲料水に浄化できる。電源不要の手動式ポンプで操作も簡単。重量13kg、外寸H550×W380×D390mm、浄水能力60l/h
Takumi 8 Takumi 9
手で持つほかに、引いて運ぶことも背負うこともできる3WAY方式。 【付属品】本体セット(前処理スクリーン・石英砂フィルター・活性炭フィルター・UF膜)、交換用紙フィルター、交換用カートリッジ(活性炭・UF膜)、ビニール手袋

 

Takumi 10 Takumi 11
ウェルシィ代表取締役社長・福田章一(ふくだ・しょういち)さん。柔らかな物腰ながら、狙い澄ました戦略で同社を力強く導いてきた。 株式会社ウェルシィ(本社)
東京都千代田区麹町4-8-1麹町クリスタルシティ東館11階
TEL:03-3262-2431
FAX:03-3262-2455
http://www.wellthy.co.jp/

 

撮影/長尾 廸 取材・文/大津恭子

この記事の感想
  • とてもおもしろく役に立った (0)
  • おもしろかった (0)
  • 役に立った (0)
  • つまらなかった (0)