世界シェア70%以上の実績と戦略 – 国境を越えて愛される化粧用スポンジ

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化粧のノリの良し悪しは、肌の状態だけで決まるわけではない。じつは、化粧道具を変えることで飛躍的に美しくメイクできることがある。雪ケ谷化学工業株式会社は、化粧スポンジにおいて、世界シェア70%以上の実績を誇るスポンジ素材メーカー。資生堂やコーセーなど日本の化粧品ブランドだけでなく、ランコム、エスティーローダー等々、世界の名立たる化粧品メーカーが、同社のスポンジに厚い信頼を寄せている。

化粧スポンジは、使用者はほぼ毎日使用するため、丈夫で長持ちしなければならない。また、女性の肌に直接触れるものなので、肌触りの感触がとても重要である。だが、この「感触」というのが曲者で、「使用者の好み」と「使用するファンデーションの性質」の両方にしっくり合って初めて「好感触」になるのだ。

その意味で、雪ケ谷化学工業のスポンジが世界中の女性に愛されているという事実は興味深い。成功の秘密は、“世界中の女性から愛される万能スポンジ”を作ったのではなく、“世界中の女性とファンデーションに対応した多種多様なスポンジ”を作ってきたことにある。
雪ケ谷化学工業では、硬さ・色・形・表面の仕上がりなどを幅広く網羅した言語別のサンプル帳を用意し、商品化プロセスを円滑にしている。また、日本では化粧スポンジは肌色が一般的だが、欧米では白が主流。硬さや厚みにも、国によって好みの傾向に差があるそうだ。

坂本光彦社長は「基礎となる技術があるので、どこの国のメーカーに対しても、必ず要望を叶える自信があります」と胸を張る。

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硬さ別・気泡別のスポンジのサンプル。上ほど柔らかく、下方向は硬い。左側ほど荒く、右側ほど細かい。
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色のサンプル。オーダーによって、サンプルにないオリジナルの色を作り出すこともある。

良いものは必ず認められる

ところで、良い化粧スポンジの条件とは何だろう。それは感触が良く、時間が経っても硬くならず、変色しないものだ。これらの条件をすべてクリアするためには、様々な工夫を織り込む必要があるため、他社の製品より30~40%ほど高くなってしまう。しかし、一流化粧品メーカーになればなるほど、最後に選ぶのは雪ケ谷化学工業のスポンジなのだ。

「美を追求することに理解がある化粧品メーカーだからこそ、良品にコストをかける判断ができるのだと思います」(坂本社長)

雪ケ谷化学工業は1951年の創業。当時は主にベッドマットのクッションとブラジャーに内包されるパット等の製造販売を行なっていた。

1950年代後半になり、日本の高度経済成長に伴って女性の購買力が上がったのをきっかけに、化粧品の売り上げが伸びた。しかし、ファンデーションを塗るときに使用するスポンジには「劣化しやすい」という欠点が付きまとっていた。劣化の原因は原材料の天然ゴム。ファンデーションに含まれる油分と化学反応を起こし、膨張していたのだ。また、紫外線にも弱く、しばらくするとボロボロと崩れてしまった。

1977年、コーセーが発売したコンパクト型ファンデーションが爆発的なヒット商品となり、同タイプのファンデーションが次々と世に出た。スポンジの需要も一気に伸びたのだが、図らずも、この問題点が浮き彫りになってしまった。「スポンジが膨らんでケースに収

まらなくなる」という事態が日本全国で起きたのである。

そこで、当時営業本部長だった坂本さんを主軸に、耐油性スポンジの開発に取り組むこととなった。試行錯誤を繰り返し、合成ゴムを原材料に使用することで、膨張するという欠点をクリアしたスポンジは、『ユキロン』と名付けられた。

このユキロンのデビューには意外なハードルが残されていた。機能は向上しても、見た目に変化がなかったため、メーカーが採用する決め手に欠けていたのだ。

「加工会社の知人に相談したら、スポンジの角を削ってくれましてね。面取りしたら今までと違って洒落た感じになったんです」(坂本氏)

そこで、コーセーがいち早くユキロンを取り入れたところ、ユーザーに大好評を得た。続いて資生堂など大手化粧品メーカーがこぞってユキロンを指名していくうちに、日本中の化粧品メーカーのスポンジがユキロン一色になったのである。

きめの細かいユキロンは肌触りが良く、ファンデーションを薄く均一にのばすことができる。また、耐久性に優れ、繰り返し洗って使用できる点も、清潔好きな日本人の感性に響いた。

海外ではレブロンを皮切りに大手メーカーに受け入れられ、シェアは拡大の一途をたどった。現在世界各国のブランドに合わせて1000種類以上のスポンジが製造されている。

 

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化粧チップの先に使用されているスポンジも、同社の製品。昔は劣化しやすかったチップが、現在では化粧品を使い切るまで使用できるほどの強さになった。
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ブラジャーに内包されているパッドにも同社製が使用されている。型崩れしにくく、変色しない素材は色の薄い下着には必須だ。

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1970年代は、油を吸収したスポンジはその部分が膨張してしまった(写真左)。ユキロンは油分を含んでも膨張しない(写真右)。

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つくば工場と海外(中国とタイ)の2工場で毎月1500万個以上のスポンジを生産。泡立てた材料を型に流して蒸し上げ、両手でねじあげながら型から取り出す。柔らかい素材のため、機械は使えず手作業になる。

 

特殊性を追い続けて

「隙間を見ていると、埋められるなぁ、と思うんです」と坂本社長。個体と個体の間には、必ず隙間がある。スマートホンを見ても、デジタルカメラを見ても、水や埃が入り込む可能性のある部分に目がいき、「ウチの特殊技術と製品で、この隙間をなくすことができる」と思うのだそうだ。

事実同社では、制震や防水性能がある新素材を開発し、自動車部品やスポーツ・医療分野においても重要なパーツを担ってきた。たとえば2006年に開発した高機能ポリウレタン「テラポリカ」は、制震性に優れるため、高級スピーカーエッジの素材としてもはや必須の存在。ユキロン同様、紫外線や熱に強い原材料を練り込んでいるので劣化しにくく、長期間使用できるのが特徴だ。

そんな同社が次に見据えているのが、新素材「PVA」による排水処理。PVAは抜群の保水性能があり、多くの空孔がある。そこに微生物を住まわせれば、汚水を浄化することができると考えたのである。

現在、東京都の汚水処理にかかる電気代は年間約500億円。半永久的に使用できるPVAの活用は、電気代の大幅カットだけでなく、近い将来、エコな汚水処理法として注目されるに違いない。

 

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発泡ポリウレタン「テラポリカ」は、ホームシアターなど高級オーディオのスピーカーエッジをはじめ、中価格の普及帯にまで使用されている。

 

排水処理・水質浄化に役立つ新製品PVA
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1㎝角の素材PVA。抜群の吸水・保水力があり、耐摩性能にも優れている。隙間に微生物を住まわせることで水質浄化ができると考え、現在検証中だ。

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PVAによる水質浄化実験が様々な条件下で進行中。社長の自宅にある池でも、PVAを入れて浄化実験しているという。

 

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雪ケ谷化学工業代表取締役社長・坂本光彦(さかもと・みつひこ)さん。日常生活の中でひらめいたアイデアを即座に具現化し、社を導いてきた。

 

雪ケ谷化学工業株式会社(本社)
東京都大田区大森北6–23–22
TEL:03-3761-1445
FAX:03-3768-0469
http://www.yukilon.co.jp/

 

撮影/長尾 廸 取材・文/大津恭子

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