ヒューマノイド型ロボットにも応用が可能!? – 大きなパワーを身近に利用できる超小型ガスタービンの開発

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ケースの右上が燃料供給部、左上がコントローラ。手前中央にタービンが置かれ、その右サイドが吸気口と消音器、左サイドにも消音器が設置されている。ケースは13Kgほどの重さだが、軽量化すると半分ほどの大きさで、8Kg程度になる。

 

ジェットエンジンや発電所で使われているガスタービン。大きなパワーを生み出すが、タービン自体巨大で、ゆえに一般には馴染みの薄いものである。しかし、このガスタービンがパワーそのままに小さく、個人でも簡単に扱える動力装置となったとしたら、私たちの生活に利便をもたらすに違いない。今までに無い小さなガスタービンが開発されたと聞いて、早速訪ねることにした。開発したのはIHI。日本の重厚長大産業の一翼を担ってきた企業である。

東京・豊洲にあるIHI本社の応接室。目的のガスタービンを見せて欲しいと頼むと、新事業推進部技師長の磯村浩介氏は「ここにあります」と、部屋の隅に置かれたジュラルミンのケースを指差した。それが小型ガスタービン発電機システムだという。研究室に案内されるとばかり思っていたので、少し拍子抜けしたが、反面こんな場所で稼働できるというので驚いた。

床に置かれたケースの手前中央にある、鈍く光る金属の塊がガスタービン本体だ。磯村氏が順にスイッチを入れると、やがてキーンという甲高い音が聞こえてきた。ケースの両サイドにある消音器と冷却ファンの音にでかき消されてしまうほどであったが、間違いなくジェット機のエンジン音だ。一方、タービンの回転数はみるみる上がっていく。10、20、30・・・・・・40万回転に達したところで電球のスイッチを入れた。すると瞬時にまばゆい明かりが灯った。

「今は200Wの出力ですが、設計上は400W。回転数も毎分47万回転まで安定して出せます」

話に頷く間に、ケースはみるみる熱くなった。だが、不快な匂いは微塵もない。燃料は登山などで使用するカートリッジ式のガスボンベだ。

ロボットを動かす動力に

現在アシモを筆頭に、様々なロボットが開発されているが、開発が進むにつれ問題となるのがバッテリーだ。

「現在のアシモには約500Wの電力が必要です。しかし、ほとんどの研究が視覚認識や動作の研究に終始していて、電池は販売しているものを使っているという状態。残念ながら半日充電して30分〜1時間動かせるレベルです。災害救助ロポットでも1時間程度のミッション時間しかない。これでは人の役に立たず、人寄せパンダの域を出ません。ヒューマノイド型ロボットとしては、一日中横にいて仕事をしてくれる必要があります」

磯村氏によれば、ロボットを実用的に数時間使えるレベルにするため必要な電力は、少なくともエネルギー密度で500Wh/kg、パワー密度で200W/kg程度。それを実現するにはガスタービンの小型化が最適だという。というのも、二次電池(リチウムイオン式電池)はパワー密度が大きいが持続できない。また、燃料電池はとても重く、ロボット自体に負担がかかりすぎる。それらの条件をクリアできるのが内燃機関という訳だ。

ガスタービンの優位性

内燃機関を代表するひとつが自動車のエンジン=レシプロエンジンである。これは、燃料を圧力エネルギーに変換し、シリンダ内のピストンの往復運動をクランクシャフトの回転として取り出しているもの。一方のガスタービンは熱エネルギーをノズルを経て速度エネルギーに変換し、高速噴流の衝動力や反動力によってタービンを回転させる。間欠的と連続的という違いだ。

「レシプロエンジンは温度が高くなったり低くなったりと、その振幅が大きいため、どうしても燃焼しないガスが出ます。その点ガスタービンは安定しているので、熱の逃げや温度の分布に従い、平常作動点の所で設計を上手くできます」

また、レシプロエンジンは常に摩擦があり、これを減らす事ができない。一方ガスタービンは回っているローター自身、軸受以外はどこにも接触しない。さらに空気軸受を使えばそれ自身も浮いているため、摩擦がなくなる。

小型ガスタービンの開発は、東北大学と研究レベルで2000年から始まった。スタートから大きく立ちはだかった難題は、軸受の回転数だ。性能は回転部分の一番外側の速度で決まる。

超高速回転の軸受を開発する

直径1mの回転翼が動く速度を直径1cmの回転翼で実現するには、100倍の回転数が必要だ。たとえば毎分1万回転のジェットエンジンを100分の1にスケールダウンすると、毎分100万回回せる軸受が必要になる。

「そのような軸受はありませんでした。なので、軸受の開発から始めた」

と磯村氏。開発を始めてから5年後に、1分間に87万回回せる軸受が完成した。だが、外から大量の動力を与えねばならず失敗に終わる。そんな時、アメリカのあるベンチャー企業から、弊社の自分で空気を吸い込んで回るフォイル軸受を使わないかとの話が舞い込んだ。

「そのフォイル軸受は、ただシャフトの真ん中が回転するだけ。円筒形のハウジングの内側に半円筒状の板バネが波状に並び、その頂点をなぞるように、大きな円筒状の板バネがひとつあり、その内側をシャフトが通ります。回転すると、表面の粘性で薄い空気膜を引きずり込む。そこがバネになっているため、空気膜を安定させ、それを維持できるのです。5〜6ミクロンといった薄い空気膜です」

それを用いた開発プロジェクトが2007年にスタート。2011年までほとんどの時間がこの軸受の開発に注がれたという。だが難関はこれだけでは無かった。もうひとつの壁は温度だ。

「熱機関ですから最高温度と最低温度の差がある程度欲しい。例えば燃焼機の出口の一番高い温度は約900°Cに達します。ところが、圧縮機の入り口一番低いところは20°Cしかありません。大きいエンジンなら900°Cと20°Cが1mも離れていますが、私が設計しているエンジンでは、それが1cmしかありません」

空気力学は全てスケールダウンできるが、熱の伝導は材料の特性だ。小さくしても同じようにはならない。それをどうやって実現するのだろうか?

「これはMITと東大と共同開発したシミュレーション技術と、あとは空気膜を使って遮熱する方法をみつけました。このおかげで、小さな物でも安定して回せるようになったのです」

その技術が以前はどちらもなかったため、出来ないと見られていた、と笑う磯村氏。だが、果たして空気膜はどのようにその材料温度に影響を及ぼすのだろうか?そう質すと、そこは秘密だといいながらも、次のように話してくれた。

薄い空気の膜で熱を操る

「どこかから冷却用の空気を持ってきて薄い膜にして熱を防ぎたい、膜の空気を流してやりたいと考えました。例えばタービンがあってこちらに発電機があって、壁の中に細い空気通路を作るとか。そういう事をやってやるのです。

その流れが常に温度の低い方から高い方へ効率よく熱をとりながら上手くいくように作る。小さすぎて中は計れませんが、計れる部分が幾つかはある。中がどうなっているかをシミュレートするのに空気の流れと、熱の流れと熱伝達の全部のモデルを作ってやり、熱のネットワーク計算をする。それが計測した点と合致したときに中がどういった温度分布になっている筈だというのを導き出すのです」

量産化されれば、軽量で排気ガスがクリーンで、しかも静かな発電機として重宝するに違いない。そしてより進化すれば、私たちの生活にヒューマノイド型のロボットが寄り添うことも、夢ではなくなるだろう。大きな期待を持って見守りたい、小型ガスタービンである。

 

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手の平サイズのガスタービン本体。400Wの出力を実現。回転数は40万rpm。燃料はプロパンの他、軽油、灯油で実証済み。理論的にはバイオ燃料も使える。左の写真は熱交換機を付けたもの。これにより、熱効率をガソリンエンジンと同等まで引き上げることが可能。

 

二次電池や燃料電池では、ロボットの要求するパワーと持続時間の双方を補えない。補えるのはガスタービンなどの内燃機関だが、屋内など閉ざされた空間で使用するなら、排気ガスが出ないガスタービンが有力。

 

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IHI新事業推進部技師長の磯村浩介氏。マイクロエネルギーの研究から、航空機エンジンの開発にも携わる。開発した小型ガスタービンの実用化を目指している。

 

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株式会社 IHI
東京都江東区豊洲三丁目 1-1 豊洲 IHI ビル
03-6204-7800(代表)
http://www.ihi.co.jp

 

撮影/内藤サトル取材・文/JQR編集部

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