どんなものでも切ってみせます – 超音波切削加工技術の先に拡がる無限の可能性

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日本の主要海苔メーカーでは100%近くがクマクラの海苔切断機を使用している。巻き寿司用、味付け海苔用、軍艦巻き用、もみ海苔、きざみ海苔…など、短冊状に切る切断機だけでなく、ハートやもみじ形など多様な形に型抜きできる機械もある。他社の機械より若干高めでも、リピート買いする企業が多いという。

 

日本の海苔の消費量は年間約100億枚。太巻き、細巻き、軍艦巻きなど寿司だけでなく、おむすびや餅に巻いたり、丼や汁物・料理へのあしらいに刻んで散らしたり...。海苔と日本食は切り離せない関係だ。

さて、この10年で、現代日本人の常用食となったコンビニおむすび。その海苔(以下、コンビニ海苔)に、ある大変革が起きたことに気づいているだろうか。一昔前は、コンビニ海苔は品質の悪いものが多く、かたさが際立った。しかし、2000年頃からパリッと歯切れがよく、食感や風味も飛躍的に向上した。じつはその裏に、意外な技術が隠されている。

サクッと噛み切れるコンビニ海苔には、一見わからないほどの小さな穴が無数にあいている。穴の大きさ、形状、間隔、すべてが揃って初めて、コンビニ海苔としての価値が加わるのだ。

海苔は、濡れたり湿気を帯びると、それこそ「糊」のようにベタつく。飛び散った海苔の粉が穴をあける工具にまとわりつき、切れ味を悪くする。また、海苔はもろい天然素材であるがゆえ、力を加えすぎると不規則に割れてしまう。瞬時に均一な穴を開けるのは、じつは容易なことではないのだ。

この難業をクリアしたのが、株式会社クマクラの技術だ。

東京・大田区に社を構えるクマクラは、精密部品加工技術を誇る町工場。高度な微細加工の受託が主な事業内容だった。そんな町工場が、なぜ異質とも思えるコンビニ海苔加工の技術開発を請け負ったのか。それは、当社が海苔の性質を熟知していたからに他ならない。

 

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板海苔穿孔機「∞(無限)」。クマクラの機械にはすべて、熊倉会長によってユニークな商品名が付けられている。この機械で海苔の繊維に微細な穴(スリット)を入れることによって、海苔の触感が劇的に変わる。右、1枚の海苔には、0.2mmの穴が4000個開いている。

 

海苔との出会いは「ささやき」から

話はさらに15年ほど遡る。異業種交流会の流れで行なわれた酒席で、ある一人が「海苔をきれいに切れる機械はないかな」ともらした。その発言を聞き逃さない男がいた。現クマクラ会長・熊倉賢一さんである。

翌朝、発言した海苔業者に電話をかけると、即日呼び入れられた。そこて見たものは、想像だにしていなかったアナログの世界。なんと、パートの熟練女性が手作業で海苔を断裁していたのだ。しかも、「飛散した海苔が肌にくっつくとなかなか取れず、臭うから、パートさんの家族も困っていた」というのだ。こうして、熊倉さんは誰にでも同じように切れる海苔の機械を考案することとなった。

折しも時代は贈答用の高級海苔が売れなくなり、代わりに回転寿司やコンビニなど、業務用海苔の需要が伸びていった時期にあたる。需要に伴い、様々なサイズに素早く断裁できる海苔切断機が必須となった。このとき開発されたクマクラの機械はやがて大手海苔メーカーでも採用され、今では全国シェアの4割強を占める。今日我々がサイズ別の海苔を容易に入手できるのも、この機械のおかげだ。

話をコンビニ海苔に戻そう。海苔に穴をあける技術の成功は、このようにすでに海苔切断機を作った経験があることに加え、当社が微細加工技術に長けていたことにも起因する。先に述べたとおり、海苔は時間が経つとしんなりとしてしまう。キリのような円錐状の刃で穴をあけても、やがて湿気て塞がってしまう。海苔業者との話し合いを重ねること3年、刃先をスクエアにすることで、海苔に穴を開けることに成功したのである。

あらゆるジャンルとの連携

熊倉さんは大企業の下請けオンリーを脱却すべく、自社製品の開発を考え続けてきた。そのために重視してきたのが、「連携」である。

地域や業種、大学や研究機関など、あらゆる境界線を超えたネットワークを構築し、自ら顔を出し、口を出し、手を出す。チャレンジャーであり先導役。実際にお会いすると、エネルギーに満ち溢れているのがわかる。

熊倉さんが生み出した数多くの製品アイデアは、こうした人々との交流の中から生まれたものが多い。誰かが「こんなものないだろうか」とつぶやいたものを書き留めたファイルがある。「キャッチ・オブ・ささやき」だ。

このファイルメモには、ささやきのほかに、開発コンセプトや概要、ターゲット、販売戦略等々が追記できる欄があり、すべての欄が埋まるものだけが製品化にたどり着くという。

「製品化されなかったもの?たくさんありますよ。そういうのは、今見ても作らなくてよかったと思うものばかりです(笑)」(熊倉さん)

もうひとつ、熊倉さんが大事にしているもの。それはコア技術の洗練だ。高度な微細加工技術を持っていたクマクラが、その応用によって進化を遂げ、誕生した自社製品がある。「超音波振動テーブル」だ。

ある日、某大学の研究室を訪れたときのこと。セラミックスの加工を研究している学生を見て、セラミックスの脆さを目の当たりにした熊倉さんは、さっそく共同研究を名乗り出た。そのときすでに超音波加工技術を持っていたクマクラは、バイト(刃)ではなく、ワーク(加工対象物)を振ったらどうだろう」と考え、試行錯誤の末に「超音波振動テーブル」を考案した。これにより、セラミックスのような硬脆性材に微細な穴や溝の加工をする新たな技術が可能になったのである。

コア技術を大切にしつつ、他業種と交流しながら応用させ、さらに技術を磨く。それがクマクラ流だ。海苔の穴あけ技術も、海苔にとどまらず、「シート状のフィルムや食品などに応用することができるはず」と熊倉さん。開発した技術には、必ず「+α」ののび代があることを心得ている。

 

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近未来を切り開く技術「超音波シェーパー」

そんな熊倉さんが、最近手がけている自慢の一機が、高剛性超音波ナイフ搭載の「卓上型超音波シェーパー」だ。これもまた、ある企業の開発者との会話に端を発する。

「リチウムイオン電池の研究開発上で、危険回避策はないか」というのが開発者の悩みだった。リチウムイオン電池は、コンピュータや携帯電話をはじめ、現代社会では多くの電子機器に用いられている。しかし、その研究をするために、開発者は大変危険な作業をしているのだという。リチウムイオン電池の内部には電解液が満たされており、中にわずかな金属粉などの埃が混入すると、発火や爆発を起こす危険がある。にもかかわらず、電池を覆う外装を剥がす際、そうっと剥く以外の方法がないのが現状だと知った。

そこで思い浮かんだのが、コンビーフ缶だった。中にカスを落とすことなくクルクルと外膜を巻き取れる工夫。そのために寸止めの切削加工が施されている。「寸止め」――熊倉さんはここに目をつけた。これまでは、どんなに微細でも切り、穴をあけてきた。しかし、カンナのように少しずつ素材を削り出す方法もある。そこで、微細加工と超音波加工の技術を組み合わせた「超音波シェーパー」という新技術を編み出したのである。

超音波シェーパーは、バリや欠け、削りカスを出さずに溝を掘り深められる。数ミクロンの調整ができ、溝の幅も深さも自由自在だ。さらにガラスや鉄、アルミニウム、生体や食品まで、これまで難しいとされてきた対象への切削加工も、柔軟に対応できる可能性が一気に広がったのである。

ひょっとすると、熊倉さん自身が思いも寄らなかった対象物を加工するかもしれない。日本のみならず、世界の近未来技術を切り開く可能性を秘めている。

 

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(左)最新機器、高剛性超音波ナイフを搭載した「卓上型超音波シェーパー」。商品名は『skill』。これまで切断や加工が難しいとされていた素材も、カンナのように薄く、しかも正確に溝を削り出すことが可能だ。被材によって刃先の形状や素材を変えられるので、様々な素材・用途への応用が期待できる。写真は、毎秒3万9000回の縦振動で5ミクロンずつ樹脂を彫り深めている例。
(右)シェーパー発案のヒントになったのは、なんとコンビーフ缶。

 

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株式会社クマクラ会長・熊倉賢一さん。 興味の対象が幅広く、話は無限に広がる。

 

株式会社クマクラ
東京都大田区東糀谷4-4-20
電話:03-3742-5465
URL:http://www.mmjp.or.jp/kumakura

 

撮影/長尾廸 取材・文/大津恭子

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