何気ない言葉に見る深遠な異文化論 「異目異耳」
浜地道雄

Vol.9「カーブ・ボール」の大罪

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国連安保理で生物兵器を説明するパウエル長官(AFP)

国連安保理で生物兵器を説明するパウエル長官(AFP)

 カーブ=曲線。野球用語でいえばカーブ・ボール=変化球。
 何でもないこの言葉が、実はISの台頭をはじめ、現下の中東混迷に至る2003年3月の米軍による「イラク侵略」を引き起こした元凶であるということは知られてない。
「カーブ・ボール」とは即ち、亡命イラク人の虚言、ペテン師の暗号名である。
「くせ玉」と言えば不穏なニュアンスがはっきりする。
 2001年9月11日の米国WTCテロを受けて、ブッシュ(当時)政権は、その元凶をイラク(サダム・フセイン大統領当時)にありと断定。
 そこからイラク政府が「大量破壊兵器を所持する」とし、その追及にあたり英国(ブレア政権)と提携し、2003年3月イラク侵攻を開始した。
 それに先立つ同年2月5日。イラク侵攻の米国実務責任者、パウエル(元)国務長官(=制服組のトップ)は国連で一時間に及ぶ演説を行い、イラク侵攻の正当性を訴えた。
 その根拠としたのが、「カーブ・ボール」による滑稽なほどの捏造「化学兵器の存在」であった。
 この間違いをパウエル長官は、自伝「It worked for me in life and leadership」(Harper、邦訳:飛鳥出版)の中で「自分の誕生日とならび忘れられない日」と告白している。マクナマラ長官が自伝で「ベトナム侵略(1965-1973)の間違い」を認めたのと同様だ。これが間違いであったことは、のちにブッシュ政権もブレア政権も公けに認めている。
 さて、翻って日本。同2003年12月、日本政府(小泉純一郎首相)は、自衛隊のイラク派遣を開始、漸次2009年7月まで続いた。
 この時自民党幹事長だったのが安倍晋三(現)日本国首相だ。
 つまり、米軍のイラク侵攻の愚を熟知する立場にあった。それがあろうことか、2014年7月1日には内閣の長として「集団的自衛権行使」を解釈決定したのである。
 そこでは「新三要件」として、(我が国だけでなく)「我が国と密接な関係にある他国」、即ち米国に対する武力攻撃に対して積極的に(Proactive=先手を打って=本年4月29日の米国議会における演説)貢献するとした。 そして、参議院特別委員会での議事録の捏造に基づき、9月19日未明、安保法制が成立した。

浜地道雄

国際ビジネス・コンサルタント。(財)グローバル人材開発、顧問。
1965 年に慶応義塾大学経済学部卒業後、貿易大学で学び、石油担当商社マンとして中近東に駐在。45 歳で情報ビジネスに転職、アメリカ(N.Y.)に移住。翻訳会社、日米通信会社を経て 2002 年に独立。愛知万博サウディアラビア館設営に従事。名指揮者バーンスタインの音楽映像シリーズを手掛けた。米国 Cognizant や英国 Pearson の日本顧問を経て、フランス情報産業 AtoSの日本 Executive Coordinator を務める

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