何気ない言葉に見る深遠な異文化論 異目異耳
浜地道雄

Vol.8 「積極的平和主義」の意図的誤用

Decrease Font Size Increase Font Size Text Size Print This Page
Photograph: Gary Cameron/Reuters

Photograph: Gary Cameron/Reuters

 スタンディング・オベーション!! 総立ちで拍手喝采だ。本年4月29日。日本人としては初めての米国上下院合同議会での安倍晋三総理の50分の演説で、出席議員が感動して10回も総立ちになったというのだ。就中、Proactive Contribution to Peaceを二度強調した由。「Proactive=先回りをして、先手を打っての平和への貢献」だ。
 これを(軍事)同盟国である米国の議会で強調すれば、敵からの攻撃を察知しての「先制攻撃」と受け止められる危険な言葉づかいだ。事実、集団的自衛権論議にあって、昨年7月1日に閣議決定された武力行使容認の新三要件の最重要キーワード「(我が国にだけでなく)我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した場合、と見事に一致する。なるほど、この「他国」とは即ち米国のことだから、議会で総立ちの拍手喝采となるわけだ。
 さて、その外務省の公式日本語訳は「積極的平和主義」とある。その言葉は「平和学の父」として知られる ガルトゥング教授(1930〜)が、単に戦争がない状態を消極的平和と定義したものである。それに加えて、恒常的に社会システムとして、貧困、抑圧、差別など構造的暴力のないことを「積極的平和」と提起し(1969)、平和の理解に画期的な転換をもたらした。これは国際的に知れ渡っている。

Galtung-Instituteより

 かくて、米議会演説(海外向け英語)では「先回りしての平和貢献(=先制攻撃と捉えかねない)」と発信し、国内向け(日本語)には「積極的平和主義」と意図的工夫(誤訳)がなされている。かつ、ガルトゥング教授の定義の誤用である。
 国際紛争を解決する手段としての戦争と武力行使を禁じ、国の交戦権を認めないという、稀有の日本の憲法第九条は「世界に誇れる宝」。これを保持する我々日本人としては、今後の政治情勢をProactiveに=先を見越しながら、きちんと見守っていく義務がある。

浜地道雄

国際ビジネス・コンサルタント。(財)グローバル人材開発、顧問。
1965 年に慶応義塾大学経済学部卒業後、貿易大学で学び、石油担当商社マンとして中近東に駐在。45 歳で情報ビジネスに転職、アメリカ(N.Y.)に移住。翻訳会社、日米通信会社を経て 2002 年に独立。愛知万博サウディアラビア館設営に従事。名指揮者バーンスタインの音楽映像シリーズを手掛けた。米国 Cognizant や英国 Pearson の日本顧問を経て、フランス情報産業 AtoSの日本 Executive Coordinator を務める

この記事の感想
  • とてもおもしろく役に立った (0)
  • おもしろかった (0)
  • 役に立った (0)
  • つまらなかった (0)