何気ない言葉に見る深遠な異文化論 異目異耳
浜地道雄

Vol.7 スジャータの物語

Decrease Font Size Increase Font Size Text Size Print This Page

img14

「あれは何だ?」と、日本語を習い始めたインド人が驚いたように聞く。その指差すほうと見ると、都内あちこちで見る「スジャータ」の配送車だ。「乳製品のブランドだ」と教えると、彼はなるほどと、少し複雑な表情を浮かべる。
聞いてみると、「スジャータ」とは苦行を続けたが悟りを得ることができず、痩せ衰えた釈迦に、乳粥をささげてその命を救った女性の名前とのこと。心身ともに回復した釈迦は、心落ち着かせて近隣の森の大きな菩提樹の下に座し、叡智を極め、遂に悟りを得て仏教が成道した。この逸話はインドで有名で、かくして「スジャータ」とは、インド人なら誰もが知っている女性の名前である。
 日本でのスジャータの製造元めいらくグループでは、当然その故事になぞらえて命名したのであろう。日本人に「スジャータって何?」と聞くと多くの人が「乳製品のブランド名」と答える。さらに「その意味は、語源は?」と聞かれて答えられる日本人はほとんどいない。逆に「お釈迦様に乳粥を施して救ったインド人の女性の名前」と知って驚くのである。
 このような異文化理解のすれ違いは新鮮で、楽しい。同時に、注意せねばならない「異文化の誤解」でもある。

街でよく見かけるトラック

街でよく見かけるトラック

 ある年、インドのムンバイ(旧ボンベイ)で、日本からの経済ミッションの歓迎会があった。代表の経済界トップが挨拶を始めた。「お釈迦様の国、仏教の国、インドに来られてうれしい」と。聞いていて一同ギョッとする。インドではヒンドゥー教徒約80%、イスラム教徒約13%、キリスト教徒とシク教徒はそれぞれ約2%。仏教徒やジャイナ教徒はそれ以下である。しかも、ムンバイはパルシー(ペルシャ系のイラン拝火教、ゾロアスターを祖とする)教徒で、インドで最大級の財閥Tataグループの本拠地だ。
 叫ばれる「グローバル化」。このあたりの「お互い違う」という基本的な認識もまた重要である。

浜地道雄

国際ビジネス・コンサルタント。文教大学国際学部非常勤講師.
1965年に慶応義塾大学経済学部卒業後、貿易大学で学び、石油担当商社マンとして中近東に駐在。45歳で情報ビジネスに転職、アメリカ(N.Y.)に移住。翻訳会社、日米通信会社を経て2002年に独立。愛知万博サウディアラビア館設営に従事。名指揮者バーンスタインの音楽映像シリーズを手掛ける。米国情報システム会社Cognizantや英国教育事業Pearsonの日本顧問。

この記事の感想
  • とてもおもしろく役に立った (0)
  • おもしろかった (0)
  • 役に立った (0)
  • つまらなかった (0)