夜のBreakfast

異目異耳 – Vol.5

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商社マンとしてサウディ・アラビアの首都リヤド駐在時のこと。スーク(市場)にオフィスがあるお客とアポイントが取れた。「11時に来てほしい」とのことだったので、約束当日、午前11時に行ってみると、店々のシャッターが一斉に降りていて、スーク全体がガラーンとしている。一体どうしたことかと訝るのだが、後で判明した。「午後11時に来い」ということだったのだ。

その理由は、折しもイスラーム暦の断食(ラマザーン)の月。ムスリム(イスラーム教徒)は日のあるうちは断食を行い何も食べない。敬虔なムスリムは自らの唾を飲み込むことさえせず、あちこちで唾を吐いてる。

ラマザーンは、ムスリムにとっての絶対生活訓たる「聖クルアーン」によると最初の啓示が下った聖なる月で、一年でもっとも祝福に満ちた月として待ち焦がれる月なのだ。

そして、件(くだん)の市場では日没と共に店を再開し、また、親戚縁者を集めての飲み食い(といってももちろんアルコールはなし)が、あたかも宴会のごとく店先で始まる。場合によっては徹夜騒ぎになる。

だから、翌日には寝不足と食べ過ぎで、グロッキー状態だ。そしてまた通常よりも沢山食べるから、断食月にはかえって太ってしまうことになる。

その断食は旅行者や重労働者、妊婦・産婦・病人・子供など合理的な事情のある場合は例外らしい。

異例の相撲力士「大砂嵐」はエジプト出身。イスラーム教徒。ラマザーン月には、日中の食事はなし。相撲は言ってみれば「重労働」だと思うのだが、元々スポーツマンであった「大砂塵」はずっと忠実に教えを守ってきて、「これもトレーニングのうち」と平気の平左と聞く。

ラマザーン月明けは盆と正月が一緒に来たようで大宴会となる。そして、その費用は、一族の中で最も成功した裕福な者が負担している。家父長制の一つの表れであり、一種の所得再分配という社会システムとも言える。

Breakfastとは朝食かと思っていたら、さにあらず、この「Break Fast=つまりFast (断食)をBreak (解く)」は夜に宴たけなわとなる。

夜中近くの商談から、「なるほど文化の差」かと学んだものだ。

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