私と日本 〜モダンは伝統にあり〜 [vo.5] 「侘び寂び」に関する考察

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「侘び寂び」に関する考察 – 「抽象的」な場面の違いについて

エッセイスト フランソワーズ・モレシャン

Japanandme 1

「侘び寂び」は世界が待ち望んだ答えなのかもしれない

前々号で「侘び寂び」に触れて以来、外食の折々に同席者を相手にその話題を取り上げてみたところ、これがフランス人の友人らの強い関心を喚起することに気付いた。そこで今回は、彼らがなぜそのような反応を示すかについて考察してみたい。

フランス人はユダヤ=キリスト教の伝統を持つ西洋人であり、それゆえに神道とも仏教とも縁が無い。そんな彼らがなぜ「侘び寂び」に強い関心を示すのであろうか? 

毎日を生きる上で非常に具体的な指針を与えてくれるとは言え、「侘び寂び」の基本にある理念は、simplicité(簡素)、humilité(謙虚)、retenue(慎み)、joie(喜び)、mélancolie(もの悲しさ)、beauté(美)、impermanence(無常)、spiritualité(宗教性)、vertu(美徳)といった抽象的な言葉で表現されるものである。なお、こうした言葉の全てに対応する単語は日本語にも存在するが、私の経験から言えば、日本人は抽象的な言葉をもてあそぶことを嫌い、もっと具体的な説明を好む。国民が抽象的な言葉を大いに好むフランスとは対照的だ。これが教育の違いから来ていることは確実である。フランスではごく幼いころから、すなわち小学校の段階から、先生たちが子供たちに“決まりごと”よりも“モラル”について、日本ではよく耳にする“便利”よりも“美”について多くを語る。

一方、日本人には説明しがたいものは無理に説明しない、という見事な傾向がある。フランス人はそうはいかない。私の友人である三島夫人が私に語ったことがありありと思い出される。彼女はフランスで子供時代を過ごしたので、私たちフランス人のことを良く分かっている人である。

ある日のこと、私は彼女に「私たちフランス人のことをどう思います?」と尋ねた。以下は二人の会話である。

ー「私たち日本人はフランスが大好きですよ、フランス人、フランスの歴史、モリエールやルイ14世やドゴールといったフランスの偉人がね。でも、フランス人にはちょっと疲れてしまうのよね」

ー「そうなの(と言ったものの、私はそれほど驚いていなかった)。でもどうして?」

ー「そうね、皆さんフランス人はいつだって、全てを理解したいと望むでしょ。皆さんは、いつだって、全てに説明が与えられないと気が済まない。時々は、力を抜いて起こることをそのまま受け入れるわけにはゆかないのかしら? 何が何でも流れに逆らって泳いでやろうとするのではなく、川の流れに乗って下ってゆくように……」

以上の三島夫人の感想は、日本人と私たちフランス人との間にある根本的な違いのひとつを余すところなく説明している。同時に、自然に対する謙虚な姿勢、奔馬のように制御が効かぬ現代の物質主義に抗する慎みを本質とする「侘び寂び」の理念がなぜフランス人を魅了するかの説明にもなっている。

私たちは現代の過剰な物質主義に踊らされてひたすら消費を続けている。私たちはファッション雑誌に欲望をかきたてられ、クロゼットの中身がすっかり流行遅れになってしまったとの口実で、毎シーズン、新しいバッグ、新しい靴、新しいパンタロン、新しいスカートを買ってしまう。こんな世の中は狂っている、と認めざるを得ない。そして、多くの人はこのことを自覚している。ゆえに、「侘び寂び」は世界が待ち望んでいた答であり、「薬」となった、と言えるのではないか。

それに、世界は無意識のうちに「侘び寂び」を実践し始めた。“ビンテージ”の服を扱う店が増え、蚤の市に人々が殺到している。こうした「不完全なもの、時を経て摩耗したものの内に美を見出す」という傾向は、若者にも中高年にも浸透しつつある。

当然ながら、私たちフランス人にとって、「侘び寂び」的な生き方を実践するにはそれなりの努力ばかりでなく決意も必要だ。「侘び寂び」の倫理は私たちに、いつが選択すべき時であるかを知るばかりでなく、いつが選択を放棄すべき時であるかを悟ることも同じくらいに大切である、と説いている。後者は、三島夫人が言っていた川の流れに逆らわぬ生き方である。

そう言えば、ビートルズも1960年代の終わりに「Let it Be!」と歌っていたではないか。

※この原稿は仏語で執筆されたものの翻訳です

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