私と日本 〜モダンは伝統にあり〜 [vo.3] 日本的であれ!

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エッセイスト フランソワーズ・モレシャン

 

Japanandme 1

 

日本的であれ!

日本で長年暮らしている私は、自分が日本人になりきることはあり得ないと分かっていながら、この国の人々の生き方や考え方の幾つかを自分なりに取り入れている。その最たるものは、自分の身内に言及するときの謙遜だ。

一つ例を挙げてみよう。昨日パリでフランスの知人たちと昼食をとっていたところ、私が今日本で何をしているのかについて尋ねられたので、手短に説明した。その中で、私がフランス語で書く記事や本を日本語に訳すのは日本人の夫、永滝達治である、と述べた。そして、遠慮がちに自分の夫を褒(ほ)めるために次のように付け加えた。「これといった才能は無い人だけれども、文才にはたいそう恵まれているの」これを聞くと、同じテーブルを囲んでいたフランス人たちはショックを受け、「そんな言い方はひどい!」と抗議の声を挙げた。私は釈明に追われた。いわく、私が50年近くも暮らしている日本では、フランス語の「modestie」に相当する「謙遜、謙虚」と呼ばれる態度が重んじられている。例えば、少しもそうは思ってはいなくとも、妻のことを「愚妻」と呼び、自分の子供を「豚児」と呼ぶことがある、と。

この話を突き詰めると、例の「本音(思っていること)」と「建前(口に出すこと)」について議論することになるが、これは一冊の本が書けるほどに大きなテーマである。しかしここでは、命のあるものと無いものの全ては変移するとの感覚(無常)に裏打ちされた「わびさび」について考えてみたい。これが、「謙虚」に通じているからだ。

以下は私の個人的考えだが、テクノロジーを誇って驕(おご)り高ぶっていた人間が、津波がもたらした大衝撃によって「自分たちは自然の怒りの前では昔と変わらず無力なのだ」と気付いた今こそ、日本の「わびさび」の思想が見直されるべきである。日本の中だけでなく世界全体で。なぜか?傲慢にも全ては制御可能だと思っていた世界に必要なのは、まさにこの「わびさび」を重んじる姿勢だからだ。

「わびさび」の感覚を説明することは難しい。言外のニュアンスをくみ取ることが巧みな日本人にとっても、これを説明することは至難の業だ。そこで先(ま)ずは、何が「わびさび」であり、何が「わびさび」でないかを示すリストによって、具体的なイメージをつかんでもらうことにしよう(左ページ)。

次に、「わびさび」流生活の非常に具体的な例を一つ挙げてみたい。私は数年前、私が崇敬してやまない人物、細川元首相の住まいで催された茶会に招待された。氏は現在、かつて母方の祖母(近衛家)が別荘としていた伊豆の家で暮らしている。広間の一方の壁一面に本棚が設けられているが、棚板を支えているのは木の枝である。縦柱の役目を果たせる程度に真っ直ぐであるが、樹皮がついたままだし、節くれだっており、木の枝そのものだ。自然のみが表現できるこの「わびさび」は、はっとするほど優美である。

私の結論はシンプルだ。日本が原発事故を経験し、世界が「スローフード」と持続可能なエネルギーへの転換を考え始めた今こそ、日本が西洋文明の良いところばかりでなく非常に悪いところも模倣するようになった明治時代以降、多くの人が忘れがちであった「わびさび」の生活スタイルを日本はプロモートすべきではないだろうか?

これによって日本は、世界に謙虚な姿勢をもたらしてくれるだろう。これこそ、問題山積で始まった21世紀において世界が大いに必要としている姿勢である。

私の考えでは、技術に全面的に支配されている今の世界において日本には演じるべき役割がある。それは、とりもなおさず日本文化の独自性を強調することである。

 

「わびさび」であるもの
直観的
相対的
手作り
今、このときを大切にする
自然への順応
有機的(やらわかな形状)
自然を讃える
天然素材(木材、石材…)
古びると美しくなる
公然と粗削り(いびつな抹茶茶碗…)
曖昧さや矛盾した要素を泰然と受け入れる
温かい
陰翳礼讃
有用性は必ずしも優先事項ではない
非物質的なものが優位に立つ
自然な摩耗や四季の移ろいの受容
「わびさび」でないもの
論理的
絶対的
量産
未来志向
テクノロジーへの順応
幾何学的(曖昧なところが無い形状)
テクノロジーを讃える
非天然素材(プラスチック…)
古くなると劣化する(コンクリート…)
公然と滑らか(磁器の紅茶茶碗…)
曖昧さや矛盾した要素を忌み嫌う
冷たい
過度の照明
有用性優先
物質性が理想
摩耗しないものに対する信仰

 

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