何となく女子の入門

志ら乃劇場 - 第九席

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Shirano

志らく一門に女の子が入門した。立川流全体では二人目。先に言っておくが、「女の子」と言っても年は私の一つ下。当人に年齢のことを聞いたら
「今年の8月7日で38です! 花の日です!」
と、満面の笑み付きの返事が返って来たので思わずこちらも笑ってしまった。この返答一つで、こいつがおっちょこちょいな奴だということがわかるが、私は嫌な気がしなかった。

彼女は様々な経歴があるのだが、直近の職業は「漫才師」であった。色々あってコンビが解散になったが、事前に決まっていた仕事で二人でやるネタを一人でやったそうだ。苦肉の策ではあったが、その一人二役やる状況が楽しかったという。そしてそれからしばらくして志らくの落語を見て「私がやりたかったのはこれだ!」と思い、履歴書持参で志らく一門会へやって来た。終演後受付の片付けなどをしていた私に
「志らくさんはまだいらっしゃいますか?」
 と声を掛けた。

「はい、おりますが、どのようなご用件で・・・」

「お会いしたいと思いまして・・・」

入門希望であることは告げなかったが、入門希望者の雰囲気がそこかしこに漂っていた。

師匠志らくは今まで来た女性の入門希望者を全て断って来た。理由は様々だろう。男社会で女性を育てる難しさや、そもそも落語は男目線で語られているものであるため、女性が演じるには多大な困難が待ち構えている。そして私は断っている全ての場面に立ち会っている。特に記憶に残っているのは私が入門した直後に来た女性。師匠も頭ごなしに断るのは悪いと思ったのか、入門に際し芸に関するハードルを設けた。

しかし次から次へとハードルを越えてくる彼女。そこで師匠志らくは
「三代目三遊亭金馬の藪入りを完全コピーしてきなさい。コピーができないと今後いい落語家にはなれない」
と、うんと高いハードルを設定した。しかし一週間後そのハードルを越えるところを私は見ることになる。いよいよ断る理由がなくなった師匠はやや観念した様子で、
「…で、オレのどこをいいと思ってるんだ」
と、最終問題を提示した。この返答次第では弟子に取らざるを得ない状況であった。そして彼女はこう答えた。

「顔がかわいい・・・」
と。時とは止まることもあるのだと感じた瞬間だった。師匠は断る理由が見つかりほっとしたような表情をしたように思う。

「それではダメだ。芸に惚れたのであればいいが、男として惚れたというのであればそれは違う」
と告げ、結局彼女の入門は叶わなかった。

ではなぜ今年来た子は取ったのか? 師匠に聞いても多分、
「なんとなく(笑)」
という返答しか返って来ないだろうが、私の感覚で言うと、「売れる気配のある奴」だからではないかと思っている。近々彼女は初高座を迎えるはずだ。

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