落語は他人に教えて進化する

志ら乃劇場 - 第三席

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Shirano

「女子落語」というタイトルのイベントを青山円形劇場で行った。出演は私立川志ら乃とアイドルグループ℃-ute(キュート)から矢島舞美さん、鈴木愛理さん、岡井千聖さんという面子。当初の予定では“落語の稽古風景をエンターテインメントとして見せる”というもので、私がアイドルの女の子に客前で落語を教えるというものだった。しかし、「女子落語」というタイトルが付いたので一席落語があった方がよかろうと私からお願いし、矢島さんに事前に稽古を付けさせて頂き「狸の札」を演じて頂いた。

稽古の回数は3回で、本番の2 週間前に行った稽古が最初の稽古という、ビックリするほど短期間で仕上げなければならなかった。また、アイドルが落語を演じるということを、当人、ファン、スタッフが「良かった」と思ってもらうことが私にとっての成功であり“ネタを最初から最後まで言えるようにする”というレベルではないことを肝に銘じていた。

落語を教える場合、対象者を目の前に置き一席ネタをやる。そして覚えてもらったら、確認するため教えた人に一席やってもらい、ダメ出しなどをして、OKか否かを決める。落語家同士であれば、大体しゃべれていればOK で、後は自分で工夫して高座に掛けて下さいってなもんだが、今回は違う。“自分で工夫”と言ったって、相手は基本を知らないので工夫もクソもない。つまりは全てのコーディネートを私がやらなければならないのだ。“やらなければならない”と書くと、嫌々やっていたように思われるが、全くの逆。こういう状況を望んでいたのだ。

師匠志らくは落語に手を加え、より良くする作業のことを“進化”と呼んでいる。そして「私の落語に進化がなくなったら見放して下さって結構」と客前で言っている。それくらい“進化”は大事で、落語家が落語に対峙する時に、必ず持ち合わせていなければならないものだと言う。もちろん“進化”とは何か新しいことをやるという意味もあるが“昔からある落語のいいところを理解し、技術的に丁寧に見せるための努力”も含まれていることは承知の上だ。そして師匠志らくがその進化の速度を速めるきっかけになったのが“演劇”だ。自ら劇団を持ち、役者へ演出をつけるのだが、この作業が全て落語に返って来ているのだ。座長ともなれば役者の質問に全て答えなければならない。それも相手が納得する答えを出さなければいけない。うまくいけばいいが、そうでない時には相手とぶつかることもしばしば。しかしそれが“いい”のだ。徹底的に相手のことを考え、導くという作業は本当に大変で気力体力を使うことだが、それに見合うだけの発見があることを知ると、やめる事が出来なくなる。

師匠志らくが大変な思いをし、落語を“進化”させているのは頭でわかっていたが、「女子落語」のイベントを任されたことにより、“進化”を微量ながら体感したように思う。自分の落語の“進化”のさせ方がわかれば、あとはやるだけ。38歳にしてようやく自分自身を成長させる術を知った気がした。

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