澤田洋史のカフェ進化論 Vol.5

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コーヒーキッズが導いてくれた日

さて、前回の続き。2008年にシアトルで開催された「フリーポアラテアートチャンピオンシップ」は、9月12・13日(金・土)に予選、翌14日(日)が決勝でした。

5000ドルという世界最高賞金と栄誉を獲得するためにエントリーしたバリスタは総勢96人。2日間に渡る予選を勝ち抜いた10名が決勝に進みます。競うのはエスプレッソの抽出と描く柄のアート性。特に柄が腕の見せ所で、鮮明さや難度、創造性が問われます。

各自持ち時間は10分ほど。準備に5分をかけ、まずコーヒーの挽き目やマシンをチェックします。そして続く5分でラテアートを3杯作り提出。これを審査員がブラインドでジャッジし、一番出来の良いものに点数を付けます。審査員は参加者と仕切られたブースにいるため、目の前のラテアートが誰のものか分かりません。男か女か。もちろん肌の色も。出来映えにのみ点数を付けるので、実に公平です。

その予選で何と僕は1位通過してしまいました。初めての経験で舞い上がるほど嬉しかったのですが、辛いのは、この予選の点数を決勝に持ち越せないこと。予選1位が優勝することは過去に例がありません。つまり、それほどラテアートを作るのはナーバスな作業なのです。

ライバルたちが交わす「明日はヒロシが優勝だな」なんて声が、否が応でも耳に入り、それが心の中でブクブクと増殖。プレッシャーに押しつぶされるとは、まさにこのことなのだと知りました。食事も喉を通らず、その夜はとても眠れたものではありません。優勝したらヴィトンのバッグを買おうか、なんてことを考えながら悶々としていたのですが、ふと以前映画で観た、コーヒー農園で過酷な労働に従事しているコーヒーキッズを思い出し、優勝したら賞金を彼らの支援団体に寄付しようと考えたのです。そう思ったらとても気が楽になり、眠りに落ちることができました。

決勝当日。ライバルたちが、素晴らしいラテアートを次々と描いていきます。自分の番が近づいてくると、体が強ばるのを感じたことは確かです。でも、コーヒーキッズのことを思い浮かべると、僕には恐いものはありません。思うよりも先に手が動くような感じで、見事なラテアートを描くことができたのです。それは僕の人生で、初めて1位を獲得した瞬間でもありました。そして僕は5000ドルを寄付することができたのです。

 

Cafe 2 澤田洋史 Hiroshi Sawada
バリスタ。ラテアーティスト。大阪府出身。食品メーカー勤務後、アメリカ・シアトルに留学。そのときラテアートに出会い魅せられる。帰国後は再び食品メーカーに勤務するが、コーヒーの道を志すため独立。2008年Free Pourラテアートワールドチャンピオンに輝き、2010年自身がプロデュースするコーヒーショップ「STREAMER COFFEE COMPANY」をオープン。

 

STREAMER COFFEE COMPANY
東京都渋谷区渋谷 1-20-28 宮川ビル 1F
TEL03-6427-3705
http://streamercoffee.com/
Cafe 1

 

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